スズキがジムニーに託すもの【世界自動車業界見聞録】

スズキ ジムニー 2019

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今回のテーマが、スズキ・ジムニーだと聞いて正直困惑しました。本コラムでは、そのタイトルの名の通り、テーマとなるモデルやメーカーについて、世界中を取材する中で筆者が感じたことをマクロな視点でまとめていくことを常としていました。しかし、ジムニー、しかもグローバル販売されているジムニー シエラではなく、軽自動車のジムニーは基本的に国内専用車であり、さらにマクロ経済に影響を与えるほどの販売規模を持っているモデルではないからです。そこで、本稿ではスズキがジムニーに託すものについて、筆者の見解を述べてみたいと思います。
Chapter
ジムニーとしては売れている
我慢前提の車ではあるが…
ジムニーの納車2年待ちは必然
「地方の人のアシとなる」哲学があるからこそ

ジムニーとしては売れている

ジムニーが特殊性の高いモデルであることに疑いの余地はないでしょう。

軽自動車でありながら、本格的オフローダーの素養を持ち、無骨でありながらどこか愛らしいデザインのジムニーは、1970年に初代が発売されて以来、独自の市場を築いてきました。そんな2018年に20年ぶりにフルモデルチェンジをした4代目ジムニーは、発売当初から注文が殺到し、一時期は2年待ちとも言われるほどでした。

国内だけでも年間100万台近くを生産するスズキですから、生産が追いつかないほど売れているというとさぞ台数が出ていると思われますが、実際には月間2000-3000台程度の販売規模です。

もちろん、ジムニーというモデルの性質上この数字はものすごいことなのですが、例えば同じくスズキの主力モデルであるハスラーは月間5000台程度、ワゴンRは1万台程度、スペーシアにいたっては1万5000台程度を販売していることを見ると、あくまで「ジムニーとしては」という前置きを付けた上で、売れているモデルであるということを認識しておく必要があります。

我慢前提の車ではあるが…

筆者自身、ジムニーを1週間ほど借り受けて、市街地から高速道路、林道に至るまで可能な限りの試乗を尽くしました。

詳細なロードインプレッションについては、それを生業としている諸賢に譲りますが、何よりもまず感じたのは、決して万人向けのモデルではないということです。もちろん、ジムニーも進化していますから、普段遣いのクルマとして使用することはできなくもないでしょう。ただし、それには多くの面で妥協、さらに言えば我慢が必要です。

現代の自動車産業において、我慢を前提としてモデルは少数派です。一般に、趣味性の高いモデル、すなわち少量生産のモデルを生産・販売すると、部材調達や工場稼働、販売効率の面で規模の経済が働かず、結果として高額となってしまいます。

フェラーリのような高級車ブランド、そしてブガッティのような超高級車ブランドは、限られた顧客のためだけにハイエンドのワンオフモデルを生産・販売していますが、それは経営判断としては必然のことです。

しかし、スズキのような量販車メーカーが趣味性の高いモデルを生産することは、百害あって一利なしと言っても過言でないほど、ビジネス上の悪手なのです。

ジムニーの納車2年待ちは必然

実際、副変速機やラダーフレーム、リジットサスなどスズキのモデルの中ではジムニーだけが持つ要素は少なくありません。

一方、ワゴンRやスペーシア、ハスラーなどは多くの部分で共通化されており、効率的に生産、販売されています。大型のエンジンを搭載したジムニー シエラを設定し、グローバルで販売することで可能な限りのコスト削減を図っているとは思いますが、決して利幅の大きいモデルではないと思われます。

おそらく、ジムニーよりもワゴンRやスペーシア、ハスラーを売ったほうがビジネス上のメリットは大きいのではないでしょうか。そういう意味で、ジムニーの生産枠は最初からできる限り制限されていたのだと思います。その結果が「2年待ち」とも言われる状況を生み出したのだと推察します。

「地方の人のアシとなる」哲学があるからこそ

スズキも多くの株主を有する上場企業であり、株主の利益を最優先させなければなりませんから、ジムニーの生産など早々にやめてしまえばよかったではないかと思われますが、スズキには「地方の人のアシとなる」という哲学があるため、ジムニーの販売をやめるわけにはいかないのです。

今でこそ少なくなりつつありますが、かつて日本の主要産業のひとつに林業がありました。それ以外にも、全国土面積のおよそ66%を占める森林に関する仕事は多く、狭い林道を走破する小型のオフローダーは待ち望まれていました。

つまり、ジムニーとはあくまでそうした人々のためのアシであり、その点においてスズキはジムニーを販売し続けるのです。結果として4代目ジムニーは多くのユーザーに評価される仕上がりとなりましたが、スポーツカーのような趣味性の高いモデルとは一線を画しています。

スズキがジムニーに託すものとは、Fun to Driveやクルマの楽しさではなく、林業従事者のパートナーとなり、地方経済を下支えすることだと筆者は感じます。

以前スズキの関係者が話していた「他社では小型スポーツカーが復活し、スズキもかつてのカプチーノの再来を期待されているが、スズキの哲学から考えてそうしたモデルが近い将来に登場することはないだろう」という言葉も、その裏付けになるのではないでしょうか。

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