1本のタイヤに2つのトレッド!? 初代NSXに一部設定された「ツイントレッドタイヤ」とは?

ツイントレッドタイヤ

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1990年に登場した初代ホンダNSXは、オールアルミボディを採用するなど、フェラーリを追撃すべく、開発責任者の上原 繁氏を中心に同社が持てる技術と限られた資源を使って開発された国産スポーツカー。今も中古車マーケットで根強い人気を誇っている。1995年のマイナーチェンジで採用された電子スロットル&DBW(ドライブ・バイ・ワイヤ)、オープントップモデルのタイプTなどに設定された「ツイントレッドタイヤ」について振り返ってみよう。

文・塚田勝弘
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耐ハイドロプレーニング性に優れたツイントレッドタイヤ
豪雨のような状態でもウエットグリップを発揮
元々の狙いは、高い旋回Gが得られるタイヤ開発だった

耐ハイドロプレーニング性に優れたツイントレッドタイヤ

NSX、S2000、インテグラ タイプRなどの開発に携わった上原 繁氏にS2000の試乗会などを含めて何度かお話を伺ったことがある。こちらの無知を見透かされるようで緊張を覚えたものの、いまや当たり前になっているDBWの利点などを丁寧に教えてくださったのを鮮明に記憶している。

初代NSXに電子スロットルとともにDBWが設定されたのは、1995年3月に受けたマイナーチェンジで、タルガトップ仕様のタイプTの追加もトピックスだった。タイプTの開発によりボディ強化の知見も培われ、他グレードにも活かされている。

さて、今回のお題である「ツイントレッドタイヤ」は、先述したDBW(電子制御スロットル)などのように残念ながら普及はしなかった。文字どおり、1本のタイヤに2つのトレッドが配されているもので、排水性の高さにより耐ハイドロプレーニング性を高めるという狙いがあったそうだ。

私自身は、残念ながら試乗する機会はなく、トレッドゴムの硬さ、柔らかさや、乗り心地やグリップ、ハンドリング性能、静粛性などは体験できていない。

豪雨のような状態でもウエットグリップを発揮

当時の資料によると、ツイントレッドタイヤ「ポテンザTT-01」は、長い基礎研究により実現したもので、高いドライ性能と優れたウエット性能を両立するのを狙いとして開発された。

左右にトレッド面を分割することにより、ウエット走行時に高い安心感と安定性を実現。さらに、独自のベルト構造により、ドライ走行時でも標準タイヤに近い運動性能が得られたとしている。豪雨のようなヘビーウエット状態に対応しながら、よりフレキシビリティに富んだ高い性能を発揮したという。

元々の狙いは、高い旋回Gが得られるタイヤ開発だった

しかし、そこは世界に通用する国産スポーツカーとして開発されたNSX。ツイントレッドタイヤ「ポテンザTT-01」は、高い旋回Gが得られる高性能タイヤの研究の中から生まれたそう。

技術面のトピックスは、中央を大きく湾曲させたコンケーブベルト(コンケーブとは、英語で窪んだという意味)構造。中央を窪ませることにで、左右のトレッドに十分な高さを与えることが可能になっている。

また、しっかりと固められたベルトが横方向の入力を強固に受けとめ、大幅に剛性を高めたビード部が十分な縦バネ強さも確保し、優れた運動性能を実現すると謳っている。ビード部の強化が乗り心地の硬さにつながっていなかったのかも気になる。

さらに気になるのは、中央の窪みにより「接地面が減るのでは?」という点。しかし、標準タイヤに近い接地面積を確保したというトレッド面は、ツイン形状によりウエット性能が確保されているため、スリックライクなパタンの採用が可能となり、ドライでの高いグリップ力も確保したという。写真を見る限り、極端なスリックには見えないものの、グリップ力の高いパタンのように感じられる。

先述したように、高旋回Gを得るには、タイヤ幅が広がる方向に力が向かう。その際、優れたウエット走破性を確保するアイディアとしてこのツイントレッド形状が発案された。NSXでは、新しい価値を創造したとするツイントレッドタイヤ「ポテンザTT-01」を、カスタムオーダープランによるオプションタイヤとして設定していた。

排水性やグリップなどは高いのは十分にうかがえるが、気になるのは、燃費性能やロングライフ性能、そして量産化効果が期待できないオプションということによる販売価格。ドイツのニュルブルクリンクで走り込んだというツイントレッドタイヤがトレンドにはなり得なかった理由は、耐摩耗性などのコスト面、装着する側(スポーツカーそのものやユーザー)のニーズが高くはかなったということだろうか。

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