【ジョバンニ・ペトロルッティの視点】“ポルシェらしさ”はどこにあるのか

"変えない"ことで伝統を作り上げてきたポルシェ

ポルシェ カイエン 2018年

今回取り上げるカイエンもポルシェはあくまでも“スポーツカー”と表現している。2002年に同社初のSUVとしてデビューした当時、「ポルシェがSUVなんて」と多くの911信者の間で物議を醸したが、結果的に多くのユーザーを招き入れることに成功し、今では弟分のマカンとその屋台骨を支える基幹車種となっている。

過去何度も倒産の危機に立たされたポルシェが、安定した財務基盤を手に入れられたのもカイエンのおかげと言っても過言ではない(もちろんVWグループの一員となったことでカイエンが生まれたのだが)。

2代目の成功を受け、ポルシェはそのデザインをほとんど変えずに3代目を送り出してきた。見た目を気にしない人にとっては、先代との違いを発見するのは困難だろう(私の妻は、説明してもわからなかった)。外見で最大の変更は、横一文字に繋がったリアのテールライトぐらいである。

もちろん、モデルチェンジでデザインを変えた方が必ずしも良いという訳ではない。ポルシェ自身、1964年に911を送り出して以降、RRのレイアウト、ヘッドライトから続くフェンダーラインなど、そのシルエットをほとんど変えずに生産してきた。変えることで新しさを演出することは容易いが、ポルシェという会社は変えないことで伝統を作り出してきたメーカーなのである。

911が世界中で愛されている理由に、その特徴的かつ普遍的なデザインをあげる人も多い。私もその一人である。911のデザインは現代のスポーツカーの1つのアイコンとして成立している。

ポルシェらしさ

ポルシェ カイエン 2018年

話をカイエンに戻そう。ポルシェの主張によると、元々カイエンのデザインはすでに”ポルシェらしさ”を有しており、さらにカイエンとしてオリジナルのデザインアイデンティティを確立しつつあるから変える必要がないとのことである。

“ポルシェらしさ”という点では、ヘッドライトから続く柔らかく滑らかなフェンダーラインに911の面影を見ることができる。LEDのマトリックスヘッドライトは近年の”ポルシェの顔”を特徴付ける重要な要素である。先に言及したテールライトも911では既に採用済みで、腰高に見えてしまうSUVの造形にワイド感をプラスしている。

余談だが、911の盛り上がったフェンダーラインは、運転席からクルマの車幅が一目でわかることのほかに、コーナリング中の車両の姿勢変化を把握しやすくする効果があるという。デザインされた当初からポルシェがその効果を把握していたか定かではないが、ポルシェのデザインは機能に裏付けされた必然の上に成り立っている逸話である。

ポルシェ カイエン 2018年

インテリアに目を移そう。ステアリングを握った瞬間からクルマと一体となった気になれるのは、ポルシェがレースの世界で磨き上げてきたドライバー優先のエルゴノミクスの賜物である。

歴代の911から採用されている視認性の高い5連メーターは健在で、アイポイントは高いものの、シートに収まった際のクルマとの一体感も911に通じるものがある。

自然とリラックスしたポジションを取ることができ、手を伸ばした先に当たり前のように鎮座するシフトノブなど、ドライビングにおいてミスのない操作が1番大切であることを最も理解しているメーカーは、やはりポルシェなのかもしれない。

カイエンらしさ

ポルシェ カイエン 2018年

では今度は”カイエンらしさ”を見ていこう。全体的な塊感や大型のエアインテークなどは健在で、今やカイエンのアイデンティティとなっている。

近年、デザイン性の高さを売りに、後席の視界が絶望的なSUVなどもある中で、きちんと視界が確保されているところにも好感が持てる。インテリアに高級感が無いと言う人もいるが、表面的な高級感や造形ではなく、あくまでも機能性を追求しているところに、バウハウスの流れを汲むドイツ流の高級感が漂っている。

ポルシェ カイエン 2018年

では、何も変わっていないのかと言われるとそうでもない。最新のインフォテインメントシステムが装備され、エンジンもライトサイジングされた新設計のものが搭載されている。

スポーツカーとして重要な走りに関しても、2トンオーバーの巨体にも関わらず、まるで物理法則を無視したかのようなアジリティを発揮するエアサスペンションやリアアクスルステアリングなど、最新技術が惜しげも無く投入されている。

私には乗り心地が少々固すぎる印象ではあったが、その乗り心地を許容できるユーザーにとって、内面と機能を徹底的に磨き上げた新型カイエンもまた、最新こそ最良と言って良いのかもしれない。

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文・ジョバンニ・ペトロルッティ/GiovanniPetrolutti
ミラン在住の覆面ジャーナリスト。デザイン工学および自動車工学の博士号をもつなど、自動車および工業デザインの双方に造詣が深い。デザインという感性によりがちなものを論理的に解釈することに努めている。愛車はマツダ・MX-5(初代)。

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