【プロフェッサー武田の現代自動車哲学論考】第三章:キャデラック XT5

キャデラック XT5

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現在の日本では知る者も少なくなってしまったが、1902年に技術者ヘンリー・マーティン・リーランドが興したキャデラックは、自動車界に最新のテクノロジーを逸早く導入するパイオニアだった。

文・武田 公実

武田 公実|たけだ ひろみ

かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッドで営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、クラシックカー専門店などで勤務ののち、自動車ライターおよびイタリア語翻訳者として活動。また「東京コンクール・デレガンス」、「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントにも参画したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム」ではキュレーションを担当している。

武田 公実
Chapter
自動車界に最新のテクノロジーを逸早く導入するキャデラック
新生XT5クロスオーバーの誕生
キャデラックのSUVを気楽に乗る

自動車界に最新のテクノロジーを逸早く導入するキャデラック

1912年にセルフスターター(エンジン始動装置)を世界で初めて実用化したのを皮切りに、パワーステアリングやヘッドライトの自動調光システム、エアコンディショナーなど、キャデラックが世界的な先駆けとなった技術は枚挙にいとまがない。

そして第二次大戦後、特に1950-60年代には、アメリカのみならず世界の高級車の規範ともなってゆくのだが、高級車のグローバルスタンダードがヨーロッパ車へと移行してしまった1970年代以降には、アメリカ国内のガラパゴス的価値観における「アメリカンドリーム」の象徴として生き続けることになる。

しかし今世紀を迎えたキャデラックは、現代を見据えた抜本的な改革に着手。例えば、現在4代目となっている「エスカレード」は、近年の高級SUVブームを先取りするヒット作となった。

そんなキャデラックの中にあって、アメリカ本国で最大のシェアを獲得しているモデルが、当地では昨年発売されたミドルクラスSUV「XT5クロスオーバー」である。

新生XT5クロスオーバーの誕生

「アート&サイエンス」なるモットーのもと、デザイン改革を図ってきた現代のキャデラックは、これまでのアメリカ車はもちろん、欧州車にも例を見ない先鋭的なデザインを打ち出している。

それは新生XT5クロスオーバーでも変わらず、先代にあたるSRXよりもさらにエッジィなボディは、実にスタイリッシュ。張りのあるパネルの面構成やウインドーグラフィックが、クールな雰囲気を醸し出す。

そしてドアを開いてキャビンに収まれば、本革レザーとスウェード、カーボンファイバーで仕立てられた、モダンかつ作りの良いインテリアに囲まれることになる。

一方、その走りはモダンであるとともに、旧き良きアメリカ車の美風も感じられる。エンジンは、中国市場などではATSおよびCTSなどと同じ2リッター直4のダウンサイジングターボが搭載されるそうだが、日本向けには潔く3.6リッターのV6NAのみの設定。自然吸気+大排気量ならではの自然な回転フィールと伸びやかなトルク感は、やや前時代的とは分かっていても心地よく、静粛性の点でも充分に満足がゆく。

またシャシーについては、今回の試乗車である「プラチナム」仕様に標準装備される20インチタイアのせいか、荒れた路面では若干のコツコツ感も感じられるが、特に高速道路などではアメリカ車のイメージを覆すことの無い、鷹揚な快適さを存分に味わえる。またタイトコーナーでこそ2t近い重量を感じるものの、高速コーナーにおける安定性は、シャシーバランスの良さをも窺わせる。

キャデラックのSUVを気楽に乗る

しかし、XT5クロスオーバーについて筆者が何より好感を得たのは、ほかには代えがたい気楽さ。乗り出した当初はそのサイズに気後れしつつも、ひとたび慣れてしまえば乗り手にまったく気を遣わせないカジュアル感に、アメリカ車の真骨頂を見たのだ。

現代におけるSUVは、オーナーのライフスタイルを体現するジャンル。だからこそ、キャデラックというラグジュアリーの象徴のようなブランドで味わうというのは、かなり贅沢な愉悦とも言えるだろう。
SUVというジャンルのパイオニアであるアメリカ人が腕によりをかけて開発したXT5クロスオーバーは、たとえエスカレードのようなフルサイズでなくとも「キャデラックのSUV」として、ちゃんと成立している。そして往年のキャデラックに喩えるならば、「エルドラド」などの2ドアクーペにも相当するパーソナルカーとして魅力的な一台と感じられる。

ただしアナクロ派の筆者は、エルドラドのごとくゴージャスなキャデラック・クーペの復活にも期待してしまうのだが……。
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