特集 熟成の時代へ

アヘッド ジャガー

ジャガーにみる 男とクルマの熟成術

アヘッド ジャガー

僕が初めてジャガーに乗ったのは20年以上前。右も左もわからぬ若造だった僕は、折に触れ父が買ったデイムラー・ダブルシックスを借りては乗り回していた。ダブルシックスのベースとなったのは1968年に登場した初代ジャガーXJ。

その後1986年にXJが2世代目へとモデルチェンジした後もデイムラー・ダブルシックスだけは改良を加えながら継続生産され、1992年までの27年間! にわたって現役であり続けた。

セクシーな吐息のように回る12気筒エンジン、路面と対峙するのではなく、巧みな〝いなし〟によって滑るように走る乗り心地…当時乗っていたシビックとはまるで違うエレガントな世界観に僕はたちまちノックダウンされた。

クルマとはかくも豊穣なものなのか。その後、僕はモータージャーナリストの道を選んだわけだが、ダブルシックスは間違いなくそのきっかけとなった一台だ。

それはともかく、得意げに父の借り物を運転していた僕だが、ある日、信号待ちでショーウィンドウのガラスに映った自分の姿を見て愕然とした。自分とクルマがまったく釣り合っていない。

いかに自分が滑稽なことをしているのかを思い知らされた。心底恥ずかしいと思った。と同時に、高級車とは高級であるが故に、乗り手の本性を遠慮なしにむき出しにしてしまうことも悟った。

高級車の定義は人によって様々だろう。でも僕は、いかにそのクルマが高価で高性能であったとしても「誰もが似合う」のならそれは真の高級車ではないと思う。お金を持っているだけではダメ。

豊かな人生経験に裏打ちされた自信や洗練された立ち居振る舞いを要求してくるようなある種の「気難しさ」があって初めて、そのクルマは真の高級車となり得るのではないか。

「いつか絶対にジャガーを自分のガレージに収めてやる。そのためにいまからジャガーに相応しい男になる準備をしておかなくちゃ」。

こうなるともう、憧れというよりは、ある種畏敬の念に近いのかもしれない。僕にとってジャガーとはそういう存在なのだ。


時は過ぎ、現在のジャガーはフラッグシップのXJを頂点に、アッパーミドルクラスのXFが主力、スポーツモデルのXKが脇を固めるという布陣を組む。来年にはXKよりコンパクトな2シーターオープンスポーツのFタイプが加わる予定だ。

どれも最新のトレンドを採り入れたデザインとテクノロジーをもつモデルであり「ツイードのジャケットを着た上品な英国紳士が似合うクルマ」というかつてのイメージとはずいぶん様変わりした。英国調を前面に押し出すのではなく、むしろBMWやアウディにがっぷり四つの勝負を挑んでいるようにすら見える。

モダンになった新世代ジャガーを見て、一部のファンからは嘆きの声が上がった。しかし、ジャガーとしてはいつまでも過去のジャガー像にしがみついていたら未来はないと判断したのだろう。この判断が正しかったことは、いまの販売好調ぶりを見れば明らかだ。

それに、ジャガーは決して過去を捨てたわけではない。事実、XJにしろXFにしろXKにしろ、実際に触れ、運転してみると、そこには紛れもないジャガーの血脈が存在することに気付く。

インテリアのウッドとレザーの巧みな使い方はまさにお家芸だし、猫足の感触を残したサスペンションや、色気のあるエンジンフィーリングにも、彼らが脈々と創りあげてきた伝統の香りが残っている。

ステアリングを切り込み、アクセルを踏み込む…そういったひとつひとつの運転操作をするたびに、また路面の突起を乗り越えるたびに「エレガントであれ、スポーティーであれ」という、創始者サー・ウィリアム・ライオンの目指した伝統のクルマ作りがはっきりと伝わってくるのだ。

企業やブランドに染みこんだDNAはそう簡単に消え去るものではない。トヨタがレクサスを作るにあたってもっとも苦心したのは、レクサスに関わる社員の価値観からトヨタという大衆車ブランドのDNAを消し去ることだったという。

それと同じように、ジャガーに宿った高級車づくりのDNAは、見違えるようにモダンになった現代のジャガーにも確実に受け継がれている。

そのなかでも非常に大きな要素が「熟成」を大切にしていることだ。XKは2006年、XFは2007年、XJは2009年にデビューしているが、どのモデルにもたゆまない改良が加えられ、年々魅力度を増してきている。

そのなかにはエンジンのパワーアップや燃費の改善といった数字で表せるものも含まれるが、それ以上に大きいのが数字には表れないフィーリング面の進化だ。

ジャガーはモデルイヤーが切り替わる度に小改良を加える。その結果年々熟成度が高まり、ドライバーが感じる「気持ちよさ」が増していく。だから古臭くならない。それどころか芳醇になっていく。最新のテクノロジーを注入した工業製品でありながら、時を経れば経るほどに魅力を増していくのがジャガーなのである。

27年間も現役であり続けた初代XJと比べれば最新ジャガーはまだ世に出たばかり。今後もさらに熟成度を深めていくだろう。新しさを追いかけスクラップ&ビルドを繰り返す他のクルマたちのなかにあって、時間をも味方に付けてしまうジャガーの生き方には大きな説得力がある。

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text:岡崎五朗/Goro Okazaki
1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイトなどで活躍。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』に出演中。

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