Rolling 40's vol.52 世界の中の日本車

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2012年人類絶滅なんて都市伝説が少し前に流行ったのも今となっては懐かしいが、昨年は未曾有の自民党大勝で締めくくられた。政治のことには明るくないが、そろそろ日本も普通のことをちゃんと普通にできる国になってもらいたいとだけ願っている。

text:大鶴義丹   [aheadアーカイブス vol.122 2013年1月号]
Chapter
vol.52 世界の中の日本車

vol.52 世界の中の日本車

日本の不思議ちゃん加減が良いところにハマっていた時代もあったのだが、それがこれから再ブームになるとも思えず、グローバルなルールの中で、ちゃんとゲームに勝たなくてはならなくなったのは明白だろう。

本誌の指針である乗りモノとの関係にしても同じことが言える。

「それって日本だけ…」

日本だけのローカルルールに代表されるように、日本の乗りモノの在り方は変なものだらけである。

つい最近旧知の自動車業界関係者が、米ラスベガスで開かれる、アメリカ最大のカスタムカーショー「SEМAショー」に視察に出向いた。

彼曰く、今年は世界的にベースモデルが豊作で、かなり盛り上がっていたらしい。また本誌でも度々取り上げている「トヨタ86」がものすごい勢いでアメリカカスタムカー業界に受け要れられているらしく、日本では想像できないような天真爛漫なカスタムが施されているという。

中でも一番印象的なのは「トヨタ86」をベースにしたマシンで、とあるカスタムコンテストを受賞したチューナーのコメントだ。

「最高のキャンバスだ」

彼はコメントで「トヨタ86」のことをこう評したらしい。もちろん日本の「改造車」だって、オーナーの創意工夫の意思が描かれているのは同じ。だが、「キャンバス」という言葉をそこに感じるかは微妙なところだ。

このセンスの絶対的な違いの理由は「昭和的暴走族」だと思う。

特に私たちの世代はクルマに乗る乗らないに関わらず、みんな否応なしにあの時代の暴走族の影響を受けている。大きな排気音…車高が低い…大きな羽など全ては暴走族。その世界観が好きであろうとなかろうと、クルマを改造すること自体に、トラウマ的に「暴走族」の存在を組み込んでしまっている。

だがアメリカのカスタムにはそんな奇妙奇天烈なトラウマはない。車検がないということが大きいが、自分のクルマを自分の責任で自由自在にカスタムすることは、大人たちの「善良な趣味趣向」なのである。そこに「年甲斐もなく暴走族みたいな真似事を…」的な引け目は微塵もない。

まあそこはたった200年遡れば、自由が基本の開拓民と、士農工商との差なのかもしれないが、クルマをカスタムすることの原風景が「反抗」なのか「自己表現」なのかという差には埋めようのない深さがある。

仕事柄、色々な国を撮影で旅し、色々なクルマ文化を見聞きしてきたが、日本的な自動車の在り方というか、自動車との関わり方は珍しいと思う。

まず日本ほどクルマを大事にしながら短期間しか所持せず、さらにそれら全てを国に強く管理されている国はない。この3つの現象はそれぞれに二律背反である。

傷一つ付けずに大事にするなら長く乗れば良いのにそうしない。すぐ売るなら傷なんて気にしないでよいのに変な話である。また車検から登録まで全てを不必要なまでに国に管理されているのに、それに対して反対運動が起きる気配もない。

さんざん金を使って税金までたくさんとられて、それらの行動を全て管理されて喜んでいるのだ。「ドМ」以外の何であろう…。

ただ、そんなガラパゴス的な「変態ワールド」も悪いことばかりではなく、そういう土壌ゆえにこれだけ自動車産業が発展し、世界的に信用を得ているとも言える。日本人というのは武士道の時代から「縛り」の中でこそ真骨頂を発揮できるのかもしれない。

だが、自動車に限らず、日本に関わる全ての前近代から続く武士道的センスもいよいよ、これからの時代では今までのように通じなくなってきているのは周知の事実。

「痛車」

イタリアンカーの変換間違いではない、アニメのキャラクターを車体カッティングシートで大きく貼り付けている、あのヲタ文化である。

実はあれが海外では異様に熱い反応を見せているという。当然日本のアニメキャラクターの世界的ブームがベースとなっているのだが、それだけでは済まないリスペクトがあるという。正直、80年代バイクブーム直撃の峠小僧を今でも自負している私としては、あんなものは…というのが正直なところである。

しかし外国のカスタム好きたちは、あの世界観に対して本気で強く「JAPAN」を感じるらしい。この話を聞くととても困惑する。良くも悪くも、そういうものがリアルな「JAPAN」だと世界が認識しているということに。

だが日本の文化芸能に関していうと、ハリウッドでまともに商品として通用しているのは唯一アニメだけであることを考えると理解できなくもない。かと言って、45歳の今になって価値観を転換させるのは嫌なので、やはり峠小僧のままでいることにした。痛車なんて興味がない。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968
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