おしゃべりなクルマたち Vol.58 なつかしさのツボ

Vol.58 なつかしさのツボ

アヘッド おしゃべりなクルマたち

それでも勇んで出掛けるのは、出品者が素人で、納屋に転がっている部品を並べてみた、ガレージで埃をかぶっていたクルマを持ち込んでみた、そんな様子が楽しいから。フランスのクルマ好きの素顔が見られるのである。

開催されたのは街というより、街になりきれない大きめな村の広場だった。この手のイベントに出掛けるたびに、ヨーロッパに自動車文化を根付かせたのは走り易い道ではなくて、こういう(どんな小さな村にも必ず在る)ピアッツアの存在ではないかといつも思う。

ミーティングの最後にクルマを並べるのは必ず広場で、素人レースのスタート地点もここ、ラリーもしかり、今回のショーでも広場中が部品を並べた机やら売りたしのクルマで埋まっていた。

部品販売会の本場はイタリアだが、車種別タイプ別年代別はもちろん、見やすく、手に取り易い用にきちんと部品を並べるイタリアのそれと較べると、フランス版の特徴はごちゃごちゃであること。エンジン・パーツと把っ手とスイッチがひとつの箱にいっしょくたに入っている。車種もごちゃごちゃだ。

不思議なカタチの部品を見つけて、これは何か?と尋ねたら、井戸水くみ上げポンプ用のパーツだと言われて吹き出してしまった。こうやって最初に部品のコーナーを回り、合間に屋台でクロワッサンを食べエスプレッソを飲んでから、それから売りたしのクルマを見て回るのがいつものコース。

やっぱり、売りたしコーナーはココロが弾む。特にフランスのイベントでは必ずルノー・サンクとかシトロエンGS、おんぼろプジョーがあって、懐かしさに胸が詰まる。ところがーー。

「初めて乗った仏車がコレだったんです」、サンクを指差し、出品者に勇んで声を掛けてみたが、「ふーん」で終わった。かつてニホンのシトロエン・ファンに大人気だったGSにいたっては見るヒトなどひとりもいない。

かわってヒトだかりが出来ているのは再塗装されたピカピカの初代ゴルフ。「ああ、懐かしい」、「これが最高にクールだった」。私と同年代と思われる人々が声を挙げる。同じガイシャでも仏車と異なりニホンではポピュラーだったゴルフにフランス人が目の色をかえている。

今度は私が言う番だ。「ふーん」

今では同じような服を着て、同じようなモノを食べ、同じような情報を共有して私はみんなと一緒に生きている。まるでずっと一緒に生きてきたかのように。けれど、私と彼らとは違う場所で育ったのだ。なぜか買ってしまったくみ上げポンプを手に、しみじみこう感じた春の一日だった。

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text:松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。

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