忘れられないこの1台 vol.48 シトロエン2CV

vol.48 シトロエン2CV

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▶︎フランスの地方農民のためのミニマムな移動手段として1948年発表。経済的で堅牢な空冷水平対向2気筒エンジンで簡潔無比の超軽量ボディを走らせた。90年まで生産が続けられ、400万台以上が世に送り出された。


それまで僕は、イタリア車を3台乗り継いでいた。シトロエンも気になる存在だったけれど、イタリアンに行ったのは単純に、若い血がそうさせたのだろう。でもカー・マガジンというエンスー雑誌の編集部に入ったことで、気持ちが一変した。
 
今も昔もエンスーの世界は英国車とイタリア車が主役で、編集部もそうだった。イタ車好きでは埋もれてしまうと直感的に思った。しかも当時乗っていたアルファ・ロメオのジュリアクーペは、性能も維持費も20代の僕には荷が重かった。だから速攻で自分の雑誌の個人売買欄に出すと、遅い代わりにお金も掛からなそうな2CVを手に入れたのだ。
 
まもなくフランス車関係の企画は一手に引き受けることになって、戦略?は当たったわけだが、それ以上に大きな発見があった。取材で乗せてもらった新旧様々なフランス車たちが、僕の感性にドンピシャだったのだ。これが運命の出会いってヤツか。しばらくフランス車と付き合っていこうと決めた。
 
2CVがある意味で、その頂点にあることも学んだ。フランス車でいちばん安く、いちばん遅いクルマが、思想や文化という切り口ではいちばん深くて濃い。単純な数字で表せない、この国のクルマならではの世界に、さらに惹かれていった。

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もうひとつ2CVに教えてもらったのは、いわゆる上昇志向が、自分にはまったくないことだった。2CVを手に入れた頃、世の中はバブル景気のまっただ中。編集部では毎週のようにフェラーリやポルシェの取材があった。でも僕はそういうクルマたちには興味がなく、ひとりパナールやシムカの取材に出掛けては喜んでいるのだった。
 
端から見れば、いわゆるビョーキ的に映ったかもしれない。でもこのマインドが、昨今は役立っている。エコカーや軽自動車に、すんなり入り込むことができるのだ。元祖エコカー、フランス流軽自動車みたいなクルマに乗っていたのだから。おまけにフランスという国は新しモノ好きで、その思想まで乗り移ってしまったためか、EVや超小型モビリティも全然OK。
 
これに限らず、その国のいちばんベーシックなクルマを愛せたおかげで、スポーツカーから貨物車まで、どんなクルマでも、いやどんな乗り物でも分け隔てなく好きになれるようになった。偉大なクルマだったんだと、最近あらためて思う。

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text : 森口将之/Masayuki Moriguchi
1962年東京生まれ。モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・テレビ・ラジオ・講演などで発表。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、グッドデザイン賞審査委員を務める。著作に「パリ流 環境社会への挑戦」「これから始まる自動運転 社会はどうなる!?」など。

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