埋もれちゃいけない名車たち VOL.12 解っている人が選ぶ"通"の四駆「FIAT PANDA 4×4」

アヘッド フィアット・パンダ

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4〜5年前、イタリアのとあるスポーツカーのプレス向け試乗会の会場でひとりのエンジニアと話していたとき、特に深い理由もなく、普段は何に乗ってるの? と尋ねてみた。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.128 2013年7月号]
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VOL.12 解っている人が選ぶ"通"の四駆「FIAT PANDA 4×4」

VOL.12 解っている人が選ぶ"通"の四駆「FIAT PANDA 4×4」

「パンダだよ、4×4の。小さいから狭い道でも気を遣わないし、ちゃんと4人乗れるし、実用的だしさ。燃費もいいんだ。機構がシンプルなのもいいよ。それに4WDだからね。マラネロの辺りは雪も結構降るし、道も凍るんだ。同僚にもパンダの4×4に乗ってるヤツは多かったよ」

彼は歴史あるスーパーカー・メーカーで開発に従事していた人物だが、新たなプロジェクトに惹かれて別ブランドに移籍した、いわばスピードとエンジニアリングのヒト。そういう人物もパンダに乗るのか…と、そのときにはその程度だった。

が、それから後に別のエンジニア達と会って、何に乗ってるの? と尋ねてみるたびに、僕の中で〝パンダ4×4、恐るべし…〟な印象が加速度的に強くなった。もしかしたら彼の地では周知の事実で僕が知らなかっただけかも知れないのだが、何せクルマに精通してる人物に限って「普段はパンダ4×4だよ」だったのだ。

イタリアの普通の人達にクルマの便利さや走らせる楽しみ、自由自在に移動する喜びといったモノを初めて提供したのは、1957年に登場した2代目フィアット500だが、事実上のその〝国民車〟的な立場の後継は誰かといえば、1980年にデビューした初代パンダなんじゃないかと僕は考える。

イタリアのどの街のどの角に立ってどっちの方向を見ても、パンダが目に入ってこないなんてことはほぼ100%ないからだ。初代も2代目も、そして2011年にデビューした3代目も、パンダはイタリア人達に愛され続けてる。

日々の暮らしのための実用車へ望むものを、その時代ごとに完全に押さえているのは当たり前。

そのうえパンダは、交差点から出発するときには誰もが意味もなく全開! というほどの、元気なドライビングが大好きなイタリア人達にバッチリ応えられるだけの活発さを持っていた。スポーツカーみたいに速くは走れないけど、スポーツカーみたいに爽快な気分で走ることができるのだ。

パンダ4×4はその4WDモデル。軍用車で知られたシュタイアプフ社と共同開発したパートタイム式4WDシステムは、必要なときにのみ相当に高い走破性を得ることができるシンプルな仕組み。

極めて万能性の高い、乗って楽しい実用車であり、欧州の山岳地帯に住む人達に、安い価格で冬の間の移動の自由と安心感を提供した優れものでもあったのだ。しかもその性能や乗り味は、自動車エンジニアリングのプロフェッショナル達にすら認められ、愛されてきたものなのである。隠れた名車、とはまさに初代パンダ4×4のことだろう。

FIAT PANDA 4×4

初代フィアット・パンダは1980年から1999年まで生産された、イタリアの小型車。ジウジアーロの天才的なパッケージングは、全長3m50cmたらず、全幅1m50cmそこそこのミニマムなボディながら大人4人がさほど窮屈でなく乗り込める室内スペースや使い勝手の良さを生み出した。

パンダ4×4は1983年に追加されたもので、手動切り替え式のパートタイム4WDながら、いざというときに高い走破性を発揮してくれる実力の高さで人気を得た。ちなみにエンジンは何種類か用意されたが、最大で1,100cc。非力だけど楽しい性格ではある。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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