忘れられないこの1台 vol.54 トヨペット コロナRT40型

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ボクが運転を覚えたのは三代目のトヨペット・コロナである。当時は珍しかったATで、2速のトヨグライド仕様だった。ウイークデイはほぼ毎朝、大きな駐車場の奥から出してくるのが日課だった。

text:菰田 潔 [aheadアーカイブス vol.132 2013年11月号]
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vol.54 トヨペット コロナRT40型

vol.54 トヨペット コロナRT40型

▶︎初代コロナはダルマと呼ばれるほど丸かった。二代目は平たくなり、三代目は電気シェーバーというあだ名が付いた四角い斜めのラジエターグリルが特徴だった。RT40型は4灯式ヘッドライトの新しいスタイルを持ち、最高速度は140km/h。ハイウェイ時代をイメージする販売戦略で国内外で大成功を収め、トヨタの主力となるとともに、技術レベルを一気に国際水準まで引き上げた。


学生だったボクは父が出勤する前に、頭から入っているコロナをバックで出して、クランクを通って出口のゲートまで運転してくるのだ。決して広くはない通路だから慎重に運転した。電子制御の現代はもうやってはいけない暖機運転を冬には何十分もするから早起きしなくてはならないが、まったく苦にならなかった。

あとから考えると、このとき2ペダルのATだからいい練習になったと思った。クルマを運転するときには、ハンドル、アクセル、ブレーキの3つが重要な要素になるが、練習のときにハンドルだけに集中できるからだ。

もしクラッチペダルがあるMTだったら、最初から一人でこんなに運転できなかったし、練習にもならなかったのではないかと思う。

運転自体は一日数分のことだが、ほぼ毎日することが上達に役立ったと思う。それもゆっくりしたスピードでハンドルをいっぱい切る場面を切り抜けるから、どこまで切ればいっぱいなのか、どれくらい切ればどれくらい曲がるのか、どこが真っすぐの位置なのか、を急かされることなく練習できたからだ。

ボクはクルマの中にいることも好きだった。止まったまま暖機運転をしている時間も愉しかった。昔はチョークボタンがあって、寒い時期に始動するときにはいっぱいまで引いてエンジンをかけた。しかしこのコロナは進歩して、エンジンをかける前に一度アクセルペダルを深く踏み込んでからキーを捻るタイプになっていたと記憶している。

エンジンが暖まってくるとエンジン回転が上昇するので(タコメーターはないから音で判断する)、アクセルペダルを軽く素早く踏むと回転が落ちることを繰り返して、最終的には安定したアイドリング状態、つまり暖機運転終了になるまで走り出すことはできなかった。

このコロナのウインカースイッチはユニークだった。ホーンリング(ホーンスイッチ)がステアリングスポークに沿ってハンドルの内側に半周あった。これをハンドルの回転方向に、スポークに掛かっている親指で1㎝ほど動かすとウインカーが点いた。ウインカースイッチが右でも左でもなく、ハンドルの中にあった。

10年ほど前に、練習したコロナと同型のAT仕様を譲ってもらった。コロナへの感謝の気持ちとして長年保管しておいたが、置く場所がなくなって今年廃車にしてしまった。運転の基本をマスターできたクルマとして、忘れられない一台だ。

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text : 菰田 潔/Kiyoshi Komoda
本職はモータージャーナリスト。クルマが好きというより、運転が好き。毎年ドイツのニュルブルクリンクに生徒と一緒に走りに行くことを愉しみにしている。
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