おしゃべりなクルマたち Vol.63 オンボロ船と深夜バス

Vol.63 オンボロ船と深夜バス

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もし手元にヨーロッパかアフリカの地図があったら、LAMPEDUSAという名前を探して欲しい。

ヨーロッパから探すなら、まずイタリアにいって、長靴の一番下のシチリア半島に進むとその左下にこの名前が記されているはず。アフリカから探すならチュニジアに進み、首都チュニスを見つけ、そこから右下を追うとすぐ見つかると思う。そう、ランペドゥーザはイタリア最南端の豆粒ほどの島だが、アフリカの向かいに位置する、ヨーロッパにとってはアフリカの港、アフリカ、そして中東諸国にとってはヨーロッパの入り口なのである。

海の碧さと自然がたっぷり残るこの南イタリア自慢の島に、難民船が漂着するようになって久しい。褐色の肌をした山のような人間をのせた、いつのものか見当もつかぬオンボロ船が浜辺に漂着するニュースを聞かぬ日はないが、解決策を見ぬまま時が流れる。

病む国から逃げる人々の受け入れをめぐって、国内のコンセンサスはとれず、EU諸国間の話し合いも進まず、かといって押し戻すわけにもいかず、どうしたらいいか、誰にもわからぬまま、“アラブの春”が起きて、そして難民の数は急増した。

今回、沈没した船に乗っていたのはソマリアとエリトリアの難民と言われるが、私にはその場所すら浮かんで来ぬ国々だ。おそらく船に乗る前、彼らは砂漠をトラックで横切ったのだろう、それから生きるために“死の旅”と呼ばれるオンボロ船に乗った、わかるのはこれくらい。

それでも私は難民と聞くと心が痛む。私がニホンに生まれたのも彼らがアフリカに生まれたのも偶然だから。ヒトが月旅行に出ようかという時代にオンボロ船に生死をかけなければならないことが悲しい。

ヨーロッパの多くの都市同様、ローマにも生き延びた難民が不法移民となって多く働く。彼らは夜になるとローマ郊外に向かう深夜循環バスに乗るという。これが“バスの話”だ。難民船沈没の第一報をニュースで一緒に聞いた友達が「ローマで有名な“バスの話”しってる?」と教えてくれた。郊外に向かうバスは深夜、出発し、小さな街をいくつも経由して朝方、ローマに戻ってくるという。

住まいを持てぬ不法移民はわずかな値段の切符を買い、このバスの中で眠る。「アタシは」とこの時、友人は言ったものだった。「国が病むがゆえに死の旅をしなければならない難民に胸が痛む。海にぷかぷか浮かぶいくつもの遺体を自分の漁船で引き上げたランペドゥーザの漁師にも胸が痛む。でもこのバスの運転手にはことのほか胸が痛むのよ」

帰る家はおろか戻る国すら持たぬ人々。自分の後ろで寝息をたてる彼らを乗せる運転手はどんな気持ちでステアリングを握っているのだろう。翌日、ランベドウーザに再び500人以上の難民を乗せた船が漂着した。

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text:松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。
自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。

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