岡崎五朗のクルマでいきたい VOL.52 技術の足を引っ張るもの

ホンダ フィット

大ヒットを記録した納得と疑問

ahead cars

3代目となるフィット、発売1ヵ月でなんと7万台の受注を獲得したという。日本市場における燃費の神様の力は本当にスゴい。

中でもハイブリッドは、リッターあたり36・4㎞。ライバルであるトヨタ・アクアを凌ぐこの燃費データが人気の原動力になったのは間違いない。

しかし新型フィットの真の魅力は、カタログスペックに表れない部分にある。初代、先代で僕が散々酷評してきた「乗り味」が大きく進化したのだ。

新型フィットは、静粛性、乗り心地、ステアリングフィール、高速直進安定性といった多くの部分があっと驚くほど進化をしている。詳細を書くスペースはないが、電動パワーステアリングのアシストモーターやダンパーといったパーツひとつとっても、安くて壊れなければいいや、ではなく、性能を重視したものを採用している。

価格と燃費さえ優れていればクルマが売れる時代にあって、なぜ数字に表れない部分にこだわってきたのか。「クルマは本来走って楽しいものですから、プロとしてそこを追求するのは当然です」「参考にしたのは欧州車です。少なくとも走行性能面で国産ライバルは参考にしませんでした」

ベストセラーカーの実力が上がったことによって、多くの人が忘れかけていたクルマの楽しさを思い起こすだろう。実に嬉しい変化である。

ただし大ヒットの要因となった36・4㎞/ℓという数字は実は「看板に偽りあり」だ。36・4㎞/ℓをマークするのはハイブリッドの最廉価グレードのみ。だが、このグレードは装備内容を考えると割高で、ほとんど売れないし、ホンダとしても、売る気はない。

売れ筋グレードの燃費は33・6㎞/ℓだ。この手のことは他メーカーもやっている。が、問題はリア中央席ヘッドレストまで省いてしまったこと。いくら売れないグレードだからといって、カタログスペックを飾るために基本的な安全装備まで省略してしまう設定には大いに疑問を感じる。

好調な新型フィットの受注だが、その7割以上をハイブリッドが占める。先行発売された2モーターの「アコードHV」とは異なり、シンプルな1モーターの「スポーツハイブリッド i-DCD(インテリジェント・デュアル・クラッチ・ドライブ)」システムを搭載している。

先代のフィットHVやインサイトに比べ、35%以上の燃費向上を果たした。

ホンダ フィット

車両本体価格:¥1,720,000(HYBRID Fパッケージ)
全長×全幅×全高(mm):3,955×1,695×1,525
車両総重量:1,080kg 乗車定員:5人
エンジン:水冷直列4気筒横置 総排気量:1,496cc
【エンジン】最高出力:81kW(110ps)/6,000rpm
最大トルク:134Nm(13.7kgm)/5,000rpm
【モーター】最高出力:22kW(29.5ps)/1,313〜2,000rpm
最大トルク:160Nm(16.3kgm)/0〜1,313rpm
JC08モード燃費:33.6km/L 駆動方式:FF

メルセデス・ベンツ Sクラス

持てるすべてを注ぐ 権威ある高級サルーン

ahead cars

Sクラスと言えば、メルセデス・ベンツのフラッグシップであり、誰もが認める世界を代表する高級サルーンだ。

上にはロールスロイスやベントレーがある? その通りだ。しかしSクラスは毎年およそ7万台が顧客のもとに送り出されている。ロールスロイスは全モデルを合わせてもそのわずか20分の1。

そう、働かないでも贅沢な暮らしが保証されたごく一部のハイエンドオーナーのためのクルマではなく、社会的な成功を収めた一般的なお金持ちが目を向ける高級サルーンとして、Sクラスはいまなお途方もない存在感を保っているのである。

Sクラスは趣味指向によって選ぶクルマではないから、クラフトマンシップであるとか希少性であるとか、そういったものはあまり重視されない。世界でもっともオーソライズされた高級サルーンに相応しい機能を備えているかどうかが成否の鍵を握る。だからメルセデスは常に持てるすべてのテクノロジーをSクラスに注ぎ込む。

新型Sクラスは最新鋭のパワートレーンと、約50%をアルミ化したスチール&アルミの軽量ハイブリッドボディを採用。優れた環境性能を実現した。遠くない将来にはディーゼルハイブリッドも登場予定だ。

さらに圧巻なのが安全装備。長距離用、中距離用、短距離用のミリ波レーダー、ステレオカメラ、赤外線センサーなど、合計24個! のセンサー類を駆使して車両の周囲360度を監視。

アラームによる警報、緊急自動ブレーキ、ステアリングアシストなどを介して事故を未然に防ぐ。それでも起こってしまう不可避の事故のために、エアバッグ内蔵シートベルトも新たに採用した。

ランフラットタイヤに起因する固めの乗り心地には課題を残しているが、それさえ改善されれば、Sクラスは間違いなく、いまもっとも高度に進化したクルマだ。そこには、いまの自動車技術ができる、すべてがある。

8年ぶりのフルモデルチェンジは「革新的な知能運転」「究極の快適」そして「徹底した効率」がコンセプト。

新たに投入された技術「マジックボディコントロール」(S550ロングはオプション)は、前方15mの路面を確認することでアクティブサスペンションを予め制御、最適な乗り心地を提供してくれる。ハイブリッドもラインアップされた。

メルセデス・ベンツ Sクラス

車両本体価格:¥15,350,000(S550 long)
全長×全幅×全高(mm):5,250×1,900×1,495
車両総重量:2,180kg 乗車定員:5人
エンジン:DOHCV型8気筒ツインターボチャージャー付
総排気量:4,663cc 最高出力:335kW(455ps)/5,250〜5,500rpm
最大トルク:700Nm(71.3kgm)/1,800〜3,500rpm
JC08モード燃費:10.1km/L 駆動方式:後輪駆動

シトロエン DS3カブリオ

右脳に響く オープンカー

ahead cars

ハイテクなど何ひとつない。まさにデザインと雰囲気で勝負といったクルマ。けれど僕は、デビュー以来、そんなシトロエンDS3の存在が気になって仕方なかった。

何がそうさせるのか。上手く説明できないのは、このクルマが左脳ではなく右脳に直接語りかけてくるからだろう。スペックや装備内容といった「条件」ではなく、外観や内装から醸し出される何とも言えない独特の「雰囲気」が、言葉では言い表せない魅力を伝えてくる。「どうして好きなの?」「分からない。でも好きなんだよね」てな具合である。

そんなDS3に新しく加わったのがカブリオだ。コンセプトは「オープンカーである以前にDS3であること」。少々わかりにくいが、要するにオープン化によってDS3らしさが失われないことが開発の重要課題だったということだ。実際、下から見上げるとDS3との違いはほとんどない。

シャークフィンと呼ばれる特徴的なピラーはもちろん、ルーフの四隅も残っている。フルオープンというよりは、とびきり大きなファブリック製サンルーフと呼んだほうがわかりやすいだろう。そしてその小さな違いが、DS3の魅力を大きく引き上げている。

ルーフ部のみ開くセミオープンと、リアウィンドウまで折りたたむフルオープンのいずれも、スイッチひとつで選択可能。開閉は時速120キロまでOKだから、日本では高速道路を含め常に操作できる。

どちらも試したが前席は風の巻き込みは想像以上に少なく、快適性は高い。ただし後席は嵐の中にいるような状態になるため、後席に人を乗せて高速道路を走るなら閉めることをおすすめする。

オープンエアモータリングの気持ちよさもさることながら、DS3の持つ小粋さが、オープン化によってさらに高まったのがDS3カブリオのミソだ。MTしか選べないためユーザーを選ぶが、正直なところ、僕はこのクルマの魅力にノックアウト寸前なのである。

DS3のエクステリアの見せ場を残すため、フルオープンではなく、ドアやサイドウィンドーは残しルーフとリアウィンドーだけを開閉するスタイルを採用。室内や荷室空間は、ハッチバックとほぼ変わらない要量となっている。ボディとルーフで色は異なり、120km/hで開閉可能なソフトトップにはDS3モノグラムがプリントされている。

シトロエン DS3カブリオ

車両本体価格:¥3,110,000(スポーツ シック)
全長×全幅×全高(mm):3,965×1,715×1,460
車両重量:1,210kg 乗車定員:5人
エンジン:ターボチャジャー付直列4気筒DOHC
総排気量:1,598cc 最高出力:115kW(156ps)/6,000rpm
最大トルク:240Nm(24.5kgm)/1,400〜3,500rpm
JC08モード燃費:13.6km/L 駆動方式:FF

トヨタ クラウンマジェスタ

揺らぐ独自路線 クラウンに近い存在

ahead cars

クラウンの上級モデルとして'91年に登場以来、マジェスタはセルシオ(後のレクサスLS)とクラウンの間を埋めるモデルとして独自の存在感を放ってきた。クラウンにはないV8エンジンやエアサスを採用した専用プラットフォーム、欧州車志向の強いセルシオとは一線を画す華やかな専用デザインなど、その内容は明らかにクラウンより格上であることを物語っていたのだ。

ところが、先日デビューした新型マジェスタは方針を大転換してきた。実車を眺めて最初に感じたのは「クラウンに似てるな」ということ。歴代マジェスタはクラウンとは異なるデザインに身を纏っていた。

ところが新型はグリルこそ高級感仕立になっているものの、全体的にはひと足先にモデルチェンジしたクラウンとよく似ている。それどころか、75㎜伸びたホイールベースを除けば、新型マジェスタのデザインはエクステリアもインテリアもクラウンとほぼ同じ。クラウンとは独立したモデルだったマジェスタだが、ここに来てついにクラウンの単なるロングホイールベース版になったというわけである。

独自開発する資金が確保できなかった、というのが最大の理由のようだ。海外勢だけでなく、レクサスのLSやGSといったライバルがひしめくなか、先代マジェスタの立ち位置は中途半端になり販売は低迷。需要の大半はハイヤーや社用車といった法人ユースだったという。ならば中国で販売しているロングホイールベース版クラウンをベースにするのが費用対効果の面からいって妥当だ、というのは至極合理的な判断だろう。

それでもクラウンにはない3・5ℓV6ハイブリッドを搭載しているあたりには「最後の意地」が見える。だが、センチュリーという浮き世離れしたモデルを除けばマジェスタは大トヨタのフラッグシップ。それが縮小均衡路線に舵を切ったことに一抹の寂しさを覚えるのは僕だけだろうか。

歴代モデルから一転、現行クラウンとあえて差別化しなかったというデザインだが、一時外されていた王冠マークを復活、威厳と風格を演出している。長いホイールベースや最新パワートレイン、最新鋭設備を装備。社用車やハイヤーとしての需要が多いため、リアシーターにヒーターが仕込まれるなど、後部座席のアメニティが充実している。

揺らぐ独自路線 クラウンに近い存在

車両本体価格:¥6,100,000(マジェスタ)*北海道・沖縄除く
全長×全幅×全高(mm):4,970×1,800×1,460
車両総重量:2,085kg 定員:5人
エンジン:V型6気筒DOHC 総排気量:3,456cc
最高出力:215kW(292ps)/6,000rpm
最大トルク:354Nm(36.1kgm)/4,500rpm
JC08モード燃費:18.2km/L  駆動方式:FF

------------------------------------------
text:岡崎五朗/Goro Okazaki
1966年生まれ。モータージャーナリスト。
青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイトなどで活躍。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』に出演中。

アヘッド ロゴ

この記事をシェアする

最新記事

     
アヘッド Car & Motorcycle Magagine ahead archives