F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.48 リタイヤ続出の裏側

Vol.48 リタイヤ続出の裏側

アヘッド オーストラリアGP

▶︎量産車の場合は、あらゆる使用条件を想定して念入りにテストを重ねたうえで市場に投入する。F1は開発コストを抑えるため、シーズン前のテストが12日間しか許されていない。パワーユニットを一新した2014年の場合、機能確認すら済んでいないのが実情。2013年は他を圧倒したレッドブルとルノーのコンビが精彩を欠いているのは、熟成不足に他ならない。対照的に、メルセデス・ベンツ製パワーユニットを積むチームは好調。ルノーとメルセデス・ベンツの中間に位置するのがフェラーリ、といった状況だ。


2014年の開幕戦オーストラリアGPも22台が出走したが、最後まで走ったのは14台だった。

小林可夢偉(ケーターハム)とフェリペ・マッサ(ウィリアムズ)の2台はスタート直後にリタイヤしたが、可夢偉が運転するケーターハムCT05のリヤブレーキがトラブルを起こして機能しなかったために、マッサに追突したのが原因だった。7台が、今年から導入された新しいパワーユニットや電子制御システムにまつわるトラブルでリタイヤした。

テスト期間中にレース距離を満足に走り込むことができないまま開幕戦に臨んだチームがあったことを考えれば、14台完走は上出来。オーストラリアGPの週末を振り返ってみても、走行初日のプラクティスでは5チーム10台が何らかの機械的/電気的なトラブルを経験している。

そこから短時間で問題を解決し、レースが成立する状態まで仕立てたのだから、さすがは世界トップレベルを自認するF1だけのことはある。

実はテストの結果が散々だったものだから、戦前は「すべての車両がリタイヤしたらレースはどうなる?」という冗談とも本気ともつかない不安がささやかれたりもした。最新のF1マシンはそれほど信頼性に問題を抱えていたのだ。

理由は今シーズンから導入された複雑かつ高度なハイブリッドシステムにある。排気量2.4ℓの自然吸気エンジンが1.6ℓの直噴ターボに切り替わっただけでも熟成させるのに相当な開発力と時間を必要とするのに、新しいエネルギー回生システムが加わったのだ。

制動時の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄えるERS-Kと、排気が持つ熱エネルギーを電気エネルギーに変換するERS-Hである。

エンジンと2種類のエネルギー回生システムを統合制御し、効率を究めるのが、パワーユニットコンストラクターとチームの腕の見せどころである。ところが、腕を競う段階までたどりついていない。システムが複雑すぎるため、ソフトウェア上の問題や熱管理の問題が続出し、その手当に追われているのが実状。

昨年まで調子が良かったチームが突然精彩を欠いたりするのはそのためだ。

ERS-Kの導入にともない、リヤブレーキは従来の油圧ブレーキと、エネルギー回生を行うモーターによる減速力を協調制御するシステム、通称「ブレーキ・バイ・ワイヤ」が導入された。これも、トラブルを誘発する要因となっている。コーナーで飛び出すシーンが頻発しているのは、制御の熟成不足が原因だ。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。
F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。
近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/


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