ボーダーレスの時代

排気量神話の崩壊 世良耕太

アヘッド ボーダーレスの時代

東京モーターショーの展示車両や、その前後の国産自動車メーカーの動きから感じたのは、国産ブランドもようやく過給ダウンサイジングに向けて舵を切り始めたということだ。2012年に日産が「エコスーパーチャージャー」を謳ってノートに1.2ℓの過給ダウンサイジングエンジンを搭載してみたが、フォロワーは現れなかった。ところがここにきて、大きな波が来ているのを感じる。

過給ダウンサイジングとは、エンジンの排気量を小さくするかわりにターボチャージャーやスーパーチャージャーといった過給機を取り付け、排気量減少分の出力とトルクを補うという考え方だ。仮に、出力のピークが過給機を取り付けない自然吸気エンジンと同じだったとしても、トルクは自然吸気エンジンより太く、しかも低回転から発生するのがメリットになる。

過給機の効果で、発進した直後から力強いし、何より運転していて気持ちが良い。低回転から力強いディーゼルエンジンの走りに慣れたヨーロッパで、ガソリン過給ダウンサイジングが定着しているのは、ここに理由がある。

過給ダウンサイジングのメリットは他にもある。低い回転域から力があるので、高回転まで回す必要がない。高速道路を定速で走りつづけるような状況では、自然吸気エンジンより低い回転で巡航することができる。このおかげで燃料の消費が少なくて済み、燃費が良くなるのだ。

つまり、過給ダウンサイジングエンジンは、気持ち良く走れて燃費に優れるパワーユニットということになる。良いことずくめのようだが、日本市場ではなかなか浸透しなかった。というより、日本の自動車メーカーは「浸透しないだろう」と決めつけて、過給ダウンサイジングに本腰を入れて取り組んでこなかった。なぜなら、国内市場ではエコといえばハイブリッドのイメージが定着していたし、ターボといえば'80年代から'90年代にかけての〝昔のターボ〟を思い起こさせ、「燃費が悪い」と決めつける風潮が残っていたからだ。それに、「排気量は大きい方がエライ」という価値観が幅を利かせていたというのもある。

初代トヨタ・カローラが「プラス100ccの余裕」という広告コピーで登場したのは昭和41年のこと。排気量1ℓの日産サニーを多分に意識しての広告戦略だった。昭和45年にデビューした二代目のサニーは、1.1ℓのカローラに対抗して排気量を1.2ℓに引き上げ、「隣のクルマが小さく見えます」の広告コピーで逆襲した。以来、日本人の中に、排気量は大きい方がエライとする排気量神話が刷り込まれていく。

意識の変化を促したのはフォルクスワーゲン(以下VW)のゴルフだ。VWは'05年、1.4ℓ直4直噴エンジンに過給機を組み合わせた「TSI」を5代目ゴルフに載せた。伝達効率に優れたDCT(デュアルクラッチトランスミッション)との組み合わせもユーザーの意識を変化させるのに役立った。排気量が大きければ力は出るけれど、燃費の悪化を覚悟しなければならない。ところが最新の過給機付きエンジンは、直噴システムの効果により、大きな排気量と同等の力を低い回転域から得られて燃費も良い。それに制御技術の進化により、ターボの弱点だった応答遅れ(ターボラグ)も感じない。

過給ダウンサイジングを取り入れたモデルはその後、BMWやメルセデス・ベンツ、プジョーやルノー、フィアット、アルファロメオなどが相次いで投入した。

海外ブランドの地道な攻勢により、大きな排気量のクルマを手に入れて見栄を張るより、小さな排気量で気持ち良く走って財布にも優しいクルマを選んだ方が賢いという意識が浸透しだした。国産メーカーも今なら大丈夫、と踏んだのかもしれない。トヨタといえばハイブリッドのイメージが強いが、プレミアムブランドのレクサスは、SUVのコンセプトカーに搭載する想定で、2ℓ・直4直噴ターボの実機を東京モーターショーに展示した。

三菱は3台のコンセプトカーを展示したが、搭載するのはすべて過給ダウンサイジングエンジンである。ホンダはモーターショーにこそ展示していなかったが、開幕直前に、1ℓの3気筒、1.5ℓと2ℓの直列4気筒の3機種の直噴ターボエンジンを一挙に発表した。スバルのレヴォーグは大ヒットした頃のレガシィの再来として話題を集めているが、注目は新開発の1・6ℓ水平対向4気筒直噴ターボをラインアップに加えたことだ。

過給ダウンサイジングエンジンを選ぶユーザーが主流になったとき、国内マーケットを支配していた排気量神話は崩壊したことになる。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/

MERCEDES BENZ E250

アヘッド ボーダーレスの時代

メルセデス・ベンツ E250
▶E250は兄弟車に3.5ℓV6(NA)を積むE300が存在するが、車両のサイズ(全長4,880mm)から考えるとE250の方が適正だと思われる。2ℓ・直4ターボを積むE250の最大トルクは350Nm。3.5ℓより低回転から太いトルクを発生する。

VW PASSART

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フォルクス・ワーゲン パサート
▶全長は4,785mmで車両サイズ的にはメルセデス・ベンツEクラスと同等。にも関わらず、1.4ℓ直4ターボ(90kW/200Nm)で何ら力不足は感じない。最大トルクが低い回転(1,500rpm)で発生するからだ。

VW GOLF

アヘッド ボーダーレスの時代

フォルクス・ワーゲン ゴルフ
▶5代目ゴルフのTSI(過給エンジンの総称)が過給ダウンサイジングブームの火付け役になった。伝達効率の良いDSGと呼ばれるデュアルクラッチトランスミッション(通常DCT)と共に、現在の7代目(写真)にも継承されている。

CITOROEN C5

シトロエン C5
▶BMWと共同開発した1.6ℓ・直4ターボ(115kW/240Nm)を積む。全長は4,795mmで、Eクラスやパサートと同じ。日本車に当てはめればクラウンサイズだが、過給エンジンなら排気量は2ℓ以下で十分である。

PEUGEOT 508

プジョー 508
▶パワートレインはシトロエンC5と共通の1.6ℓターボ。6速ATはアイシン・エィ・ダブリュ製。上質な走りを生むには、エンジンやトランスミッションの制御も重要になるのだ。効率だけを追い求めれば良いわけではない。

FIAT 500 twinAir

アヘッド 排気量神話の崩壊

フィアット500 ツインエア
▶875ccの直列2気筒エンジンを搭載。1ℓ以下の排気量で2気筒、3気筒、4気筒と比較検討した結果、最も燃焼効率が高い2気筒を選択した。振動面で課題が残るが、それをエンジンの鼓動と捉える向きもある。

PEUGEOT 508

アヘッド 排気量神話の崩壊

プジョー 508
▶パワートレインはシトロエンC5と共通の1.6ℓターボ。6速ATはアイシン・エィ・ダブリュ製。上質な走りを生むには、エンジンやトランスミッションの制御も重要になるのだ。効率だけを追い求めれば良いわけではない。

FIAT 500 twinAir

アヘッド 排気量神話の崩壊

フィアット500 ツインエア
▶875ccの直列2気筒エンジンを搭載。1ℓ以下の排気量で2気筒、3気筒、4気筒と比較検討した結果、最も燃焼効率が高い2気筒を選択した。振動面で課題が残るが、それをエンジンの鼓動と捉える向きもある。

JAGUAR XJ

アヘッド 排気量神話の崩壊

ジャガー XJ
▶2013年モデルからパワーユニットを一新し、3ℓ・V6自然吸気エンジンを2ℓの直4直噴ターボに置き換えた。大衆ブランドだけでなくプレミアムブランドも過給ダウンサイジングに向かうのが、ヨーロッパのトレンドだ。

FORD EXPLORER

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フォード エクスプローラー
▶アメリカのクルマといえば大排気量エンジンをイメージしがちだが、過給ダウンサイジング化が活発に進む。エクスプローラーもその1台だ。全長5m超、車重2t超だが、2ℓの直4ターボで179kW/366Nmも発生するので十二分にパワフル。

FORD FIESTA

アヘッド 排気量神話の崩壊

フォード フィエスタ
▶フォードは小さなクルマから大きなクルマまで「エコブースト」と名付けた過給エンジンの投入を推し進めている。その最小版が1ℓ3気筒(74kW/170Nm)。6速DCTとの組み合わせでもうすぐ日本に上陸する予定。

LEXUS LF-NX

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レクサス LF-NX
▶レクサス(トヨタ)もいよいよ過給ダウンサイジングに殴り込みをかける。「後発だけに負けるわけにはいかない」と開発担当者。ミドルサイズのSUVに2ℓ・直4ターボを組み合わせる。車体に対するレスポンスにも気を配って開発しているという。

NISSAN NOTE

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日産 ノート
▶過給機付きのエンジンは燃費が悪いという固まったイメージを払拭するために、「エコスーパーチャージャー」という愛称を付けて売り出した。燃費が良いだけでなく、よく走るのも過給ダウンサイジングエンジンの魅力だと訴えた国産車のパイオニア。

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