50代からのクルマ生活

カーライフ設計のススメ 森口将之

アヘッド 50代からのクルマ生活

前の東京都知事で、現在は衆議院議員を務めている作家、石原慎太郎氏の著書に「老いてこそ人生」がある。歳を取っていくこと、死に近づいていくことから逃げようとせず、逆に正面から向き合い、老いを味わいとしてじっくり付き合っていこうというポジティブなメッセージが綴られていた。

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著者はあのとおりアクの強い方なので、「イシハラの本なんて読みたくもない」という人もいるだろう。でも僕は、石原氏の好き嫌いは別として、本書で提言されている歳の取り方に賛同する。

僕自身、この10年間で歳を取ったなあと自覚することが多くなった。老眼にぎっくり腰に五十肩と、かつては笑い話のタネにしていた症状に、自分が見舞われるようになってきたのだ。こうやって人間は老いていくのかと痛感する今日このごろ。でも最初に紹介した本の影響もあって、それを否定せず、むしろ積極的に付き合っていこうかと思っている自分もまたいる。

50代には50代、60代には60代ならではの人生の楽しみ方があるハズ。クルマだって同じではないだろうか。好きなクルマに乗ればいいじゃん。たしかにそのとおりだ。でも好きなクルマそのものが、歳を取るにつれ変わってきていることに、多くの人が気付いているだろう。昔はダサいと嫌っていたNHKの番組が、いまは民放のテレビよりしっくりくるように。

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年齢によって似合うクルマ、似合わないクルマがあるのは疑いのない事実。僕たちクルマ好きは、それを知らないうちに自覚している。だったら人生設計と同じように、カーライフ設計を立ててもいいんじゃないかと考えたりもする。
 
かつての日本人は、定年までバリバリ働いたはいいが、これといった趣味を持たなかったので、退職後に何をしたらいいか分からず路頭に迷うという例が多かった。それに比べれば欧米の人たちのほうが、人生設計をきちんと立てている気がする。

退職とともに田舎暮らしをしたり、モーターサイクルで旅に出掛けたり、将来の過ごし方をちゃんと考えているように見受けられるからだ。最近は日本でも、同様のライフスタイルを選ぶ人が増えている。そのほうが気持ちが豊かになれるのだろう。
 
では50代に似合うのはどんなクルマなのか。僕は2ドアクーペだと思っている。リアゲートを備えた3ドアでもいいけれど、つまりはリアドアを持たない4〜5人乗り乗用車のことだ。クーペの最大の魅力。それは〝無駄〟である。セダンのように機能を突き詰めたわけではない。

スポーツカーに比べれば贅肉が多い。若いうちはそれが中途半端に映るだろう。でも人生経験を積むにつれて、その無駄をゼイタクと理解できるようになってくる。それが分かってくるのが50代あたりではないか。
 
多くの50代はそろそろ子離れをして、夫婦2人の時間を多く取れるようになるだろう。生活にゆとりが出てきて、旅行をする機会が増えているかもしれない。そんなシーンに相応しいのは、カッコよくて、仕立てが良くて、走りも楽しめる、つまり自動車の魅力を全方位的に味わえるクーペじゃないかと考えているのだ。

昔の僕は、クーペは若者の乗り物だと考えていた。でも仕事でヨーロッパに出掛けるようになると、ベテランドライバーがクーペを華麗に乗り回すシーンを何度も目にした。大人の乗り物なんだと教えられたのである。
 
ただし今、クーペを捜すとなると、これが難しい。国産2ドアクーペは気がつけば絶滅危惧種になったし、欧米でもドアが多いほうが何かと便利という日本人のような理由で4ドアクーペなる車種が増え、2ドアは脇役に追いやられつつある。
 
そんな中で1台選ぶとしたら、「ロータス・エヴォーラ」だろうか。見た目はスポーツカーっぽいが、「エリーゼ」や「エキシージ」が居並ぶ「ロータス」の中では立派なクーペである。モダンなデザインは70〜80年代に青春を過ごした自分好みだし、「ロータス」らしいしなやかな乗り心地とミドシップならではの俊敏なハンドリングのバランスは、快適は欲しいけれど快楽を忘れたくない50代にお似合いだ。
 
国産車では次期「スカイライン」のクーペに期待したい。すでにアメリカなどではセダンが「インフィニティQ50」の名前で販売されているこのクルマにクーペが追加されることは、過去2世代を見れば確実。しかも9月にアメリカで触れた「Q50セダン」は、シャープなスタイリングと上質なインテリアを併せ持ち、V6ハイブリッドとステアbyワイヤで新しいドライビングプレジャーを表現していて、なかなか好感触だった。
 
50代にとってのクルマ選びは、決して後ろ向きの行為ではない。歳を取ったことを嫌がって、無理に若々しいクルマに乗り回しても、たぶん楽しめないだろう。それよりも豊富なカーライフで得た経験を生かせる、芳醇な魅力に溢れた1台を選び、じっくり付き合ったほうがいい。若い頃とは違う、人とクルマとの味わい深い関係を築いていくことが、かけがえのない時間になりそうな気がする。

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text:森口将之/Masayuki Moriguchi
1962年東京生まれ。モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・テレビ・ラジオ・講演などで発表。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、グッドデザイン賞審査委員を務める。著作に「パリ流 環境社会への挑戦」「これから始まる自動運転 社会はどうなる!?」など。

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