メディア対抗ロードスター4時間耐久レース 女性がモータースポーツをするということ 〜若林葉子の初サーキット参戦記〜

アヘッド ロードスター 若林葉子

※この記事には広告が含まれます

メディア対抗ロードスター4時間耐久レース当日。ある程度予想はしていたものの、予選を走った加藤彰彬さんはなんとポールを取ってしまった。加藤さんがポールを取ったことは心から祝福すべきことなのだけれど、取ってしまった…という言い方をするのは、このレース独自のルールにより、第一走者が私だから。

text:若林葉子 photo:渕本智信、佐原僚介 [aheadアーカイブス vol.131 2013年10月号]
Chapter
Section 1 二人三脚の完走
加藤 彰彬(てるあき)(TCR JAPAN 代表)
Section 2 女性がモータースポーツをする ということ 〜コメント集

Section 1 二人三脚の完走

初レースでポールスタート。おまけにポールポジションを取ったチームが選手宣誓をするという決まりで、その大役まで仰せつかることになった。選手宣誓で何を言うべきか、ローリングスタートで先頭って、どうやって走ればいいのか。恐らく後にも先にも一生に一度あるかないかという状況にプレッシャーが倍増する。
自分のエネルギー補給や水分補給のタイミングを計りつつ、選手宣誓の内容を考え、その大役を何とか果たし、いよいよポールポジションでスターティンググリッドに着いた。もちろん緊張はしていたけれど、そのピークはすでに過ぎていて、思っていたより心は静かだった。
後はベストを尽くすだけ。練習してきた以上のことはできない。奇跡も起こらない。練習で出せたベストタイムは1分21秒台。本番ともなればほかのクルマもいるので、同じペースで走ることはできないだろう。だからとにかく無事にバトンを渡そう。それだけだった。
加藤さんがそばにきて握手をした。もう言葉はいらなかった。

スタートを知らせるサイン音とともに、先導車がゆっくりと走り出す。フォーメーションラップが始まった。遅れないよう近づき過ぎないようスタートする。1コーナーを周り、S字、第一ヘアピン、ダンロップコーナー、第二ヘアピン、そして最終コーナーを曲がると先導車がコースを離れる。徐々にスピードアップして、スタートラインでアクセルを一気に踏み込む。
これもまた予想していたことではあったが、1コーナーからS字に向かう頃には一斉に両側から速いクルマが襲ってくる。そのとき「ダンッ」と強い振動を感じた。左から抜きにきたクルマと接触してしまったのだ。「あ、ぶつかった」そう言うと、ピットから「大丈夫ですか」の声(ピットとは携帯電話を通じて常時通信を行っていた)。
幸い私自身は何ともない。クルマも問題なさそう。「大丈夫」 そう言ってそのまま走行を続ける。しばらくするとまたピットから「若林さんミラーは大丈夫ですか」と聞かれる。よく見ると根元がもげて逆を向いてしまっている。走っているうちに徐々にぶら下がっていき、ぶらんとぶらんと揺れ始める。
「まずい。落ちちゃったらどうしよう。オレンジボール(オフィシャルからのピットイン命令)が出たらどうしよう」 不安になって「ピットに入った方がいい?」と聞く。「気にしないでそのまま走ってください」 それがピットの指示だった。

後で聞くと、このときピットはピットで状況把握のためにみんなが動いていた。何人かがコースに走ってミラーの状態を黙視し、電話でピットに報告する。さらに以前に同じような経験をしたチームメンバーの意見も聞いて、最終的に「すぐには落ちないだろう」と判断したそうである。
私はピットを100%信頼していたので、ピットがそう言うなら走るだけ。不思議なことに接触による精神的なダメージは特になかった。ただ最終コーナーで、コードだけでつながっているミラーが窓をバンバン叩く音だけは気になったけれど。

その後、元々ハンデとして加藤さんに課されていた「1分間ピットストップ」を、規定通り第一走者である私が消化し、残りの周回を無事に終え、第二走者の加藤さんにバトンをつないだのだった。ドライバー交代時にミラーを素早く応急処置し、ミラーの件も一安心となった。
バトンを受け取った加藤さんはこの後、前を走るクルマをのきなみ抜いて行く。加藤さんのスティント中にSCが入ってしまったのは残念だった。第三走者は佐野新世さん。新世さんは暗闇に慣れるのに少し苦労したようだったけれど、きっちりと自分のスティントをこなしてくれた。第四走者はダークホースの篠原祐二さん。レース歴の長い篠原さんも見事な走りで1台1台、確実に抜いて行く。何と頼もしいチームメイトたちだろう。最後はもう一度加藤さんがハンドルを握り、チェッカーを受けた。
ポールポジションからスタートし、私のスティントで全車に抜かれ、それでも懸命に追い上げ、最後は17位。それが私の初レースだった。

*

思えば、これは初めてモンゴルラリーに出た2009年と同じ。あのときのゴールで私は同じエントラントの尾崎さんから「若林、来年は一緒に、ちゃんとレースしような」と、そう言われたのだ。今回も完走はしたけれど、私自身はレースをするまでには至っていない。参加するのが精一杯。あのときと同じだな、それが走り終えたときの感想だった。
でも違っていることもある。それはその後4年続けて参戦したモンゴルラリーを通して、レースをするというのがどういうことか、少しだけ学んでいたこと。だから短い時間しかない中で自分が何をすべきかは分かっていたと思う。

加藤さんのいうとおり、「怪我なく安全にレースを完走すること」 それは周囲を危険にさらさないということでもある。ジムカーナやサーキット走行の他にも、座学やシミュレーター練習のため、3日に一度は加藤さんのショップ、TCR JAPANに通い、暑さの中で40分走りきる体力をつけるため、可能な限り、毎日5、6キロ歩いた。本番は「遅い」という意味では本当にふがいない結果だったけれど、ライン取りに迷うこともシフトミスをすることもなかった。ふがいない自分に落ち込む一方で、これ以上はできなかったと思う自分もいる。
私がこのメディア対抗4時間耐久レースに出場することになって、当日、海外出張でどうしてもその場に居られないことが決定的となったとき、編集長の神尾は、私にとってのベストメンバーをチームアップしてくれた。まずは先生として、神尾の知り合いでもあり、ロードスターでは日本一の使い手である加藤彰彬さん。本当に加藤さんと二人三脚の道のりだった。感謝してもしきれない。
それから同じく神尾と15年以上もの付き合いのある佐野新世さん。佐野さんはバイクのモタードの名手で、世界最高峰のフランス・モタード選手権に長年出場した経験を生かし、今年四輪に転向してきた。そしてロータスのショップ、ウィザムカーズの代表であり、ロータスではこれまた日本一の使い手である篠原祐二さん。佐野さんと篠原さんは、私にとってはモンゴルラリーを通して知り合った仲間でもある。佐野さんや篠原さんが、スポーツ走行すらしたことがない私とチームを組んでくれたのは、恐らくモンゴルラリーを前提とした信頼があったのではないかと思う。そのことが本当にうれしかった。
私はもともと誰かと何かをするのが苦手。若いときからなるべく一人でいられる環境づくりをしてきた。それがラリーを通じて知らぬ間に仲間ができ、今度はラリーの仲間とサーキットでチームを組むことができた。篠原さんは今年もモンゴルラリーにバイクで出場したのだが、その出発の数日前に、無理をしてSUGOの耐久レースに来てくれた。

佐野さんは本番の3日前、私の気分転換にと加藤さんと一緒にカートに付き合ってくれて、本番前日も、私のために、ピットとの通信用に携帯電話のセッティングをしてくれた。加えて、この耐久レースの練習を通じて、加藤さん率いるTCRのメンバーとも仲良くなって、みんなが初心者の私をケアし、支えてくれた。

今、私は加藤さんの言葉を借りると、「自転車で言えば、やっと補助輪が外れた状態」 だからもう少し継続して練習してみようと思っている。その結果、上達するかしないかは分からない。上達しなければ、「自分にはできなかった」とその結果に向き合ったうえで止めるだろう。人にはできることもあれば、できないこともある。初めてのモンゴルラリーから4年が経って、今、私の心に響くのは「若林、今度はちゃんと一緒にレースしような」というあのときの言葉である。

加藤 彰彬(てるあき)(TCR JAPAN 代表)

しばらくレースから離れていた自分に、2005年のメディア対抗ロードスター4時間耐久レースで声を掛けてくれたのはaheadでした。だからその恩返しの気持ちもあって、どうしてもポールポジションを取りたかったんです。若林さんのことも当時から知っていたので、神尾さんから「若林を何とかしてくれ」と頼まれたことは、自然なことでした。

「安全にケガなく完走すること」これがまず何よりも大事な目標。そのために「できそうにもない無理なことはやらせない」ことが大前提で、ジムカーナ、シミュレータ、町中の運転でもできるトレーニング、サーキット走行、座学。それらを繰り返すことが具体的な方法でした。

最初に1泊2日のジムカーナに参加してもらったのですが、それはどの程度ちゃんとやれる人かを見極めようという意味もありました。僕は無理な人には無理って言います。驚いたことに若林さんは参加者の誰よりライン取りがきれいでした。コース図を見る、コースを歩く。そういうことにも真剣に取り組んでいた。自分にとって必要な情報に対して貪欲な人だと思いました。コースを覚えるのも早かったし、一度失敗したことを次はやらない。

短い時間なので、本人の得意なところを伸ばすことに重点を置くことにしました。つまり若林さんの場合「ライン取り」。ラインさえきれいなら、例え速度が遅くても周りは怖くないんです。周囲にとって一番怖いのは、初心者にありがちなのですが、予想できない動きをする人。若林さんはある意味「安心して抜ける人、抜きやすい人」だったと思います。

とにかく、何かを指摘すると次までに必ずそれを直してきました。お稽古ごとで言えば、その日の宿題をせずに次のお稽古にくるとか、そういうことはなかった。その場を離れたらそれで終わりじゃなくて、改善すべきところは普段の運転でも改善するように努力し、次に自分のすべきことのイメージを固めてから、練習に来ました。それはなかなかできないことで、そういうことからも若林さんの真剣さが伝わってきました。

ただ、自分で自分を追い込み過ぎて、本番の一週間前くらいからはプレッシャーで精神的にかなりぎりぎりな感じ。少し圧を抜いてあげないと駄目だなと。弱点と言えばそうかな。

本番で接触があったとき、オンボードカメラの映像で、その後も若林さんが落ち着いて走っているのが分かった。ハンデ消化のためのピットインもしないといけなかったが、僕は、多分、若林さんは今の集中力を切らして欲しくないんじゃないかと思ったので、本人が疲れたから入りたいというまで待ちましょうと言いました。そういう意味では、スタート直後は混乱もあったけれど、みんな若林さんのスティントを安心して見ていました。

ドライバーだけではなくて、メカニックやそれ以外の人たち(ピット作業、給油担当、燃費管理、ホスピタリティなどなど)全員が、ただ言われたからではなく、自分のやるべきことを考え、自分のパートをミスなく全うしようと取り組んだ。みんなで意見を出し合い、尊重し、考えて、どんどん作戦を練り直し、遂行していきました。

ただ"楽しい"でもなく、ただ"プロフェッショナル"でもなく、耐久レースの醍醐味をそれぞれが味わえたと思います。でもそれは若林さんの存在も大きかった。数ヵ月の練習の間には、チームのメンバーと一緒になることも多かったし、それを通じて、みんな彼女の真剣さを感じていたと思います。レースってやっぱり一人ではできない。「頑張っているあの人のために」と、チームのみんながそう思えることが本当に大事なんです。

自転車で言えば、若林さんはまだ補助輪がやっと外れたという段階。継続が大事だと思う。でも、本人が自転車なんか乗りたくないけど、仕事だし仕方ないからというだけで続けるのなら止めた方がいい。危ないから。人によって面白さ、楽しさを感じるところは様々だけど、何か楽しみを見つけられないとツラいだけ。若林さんは、面白いとか楽しいとかを感じる余裕がないほど追い込まれた中でやっていたので、若林さんの気持ちは本当のところどうなのかなと思います。

Section 2 女性がモータースポーツをする ということ 〜コメント集

篠原 祐二

ウィザムカーズ代表


若林さんが初心者だと聞かされましたが、加藤さんとならひっくり返せる…と考えていましたよ。

とにかくTCRさんと一緒でしたので大船に乗ったつもりでした。ロードスターに対する情報量が他のチームと大きく異なりますから、その情報の使い方にも大変興味が湧きました。初心者・女性編集者とロードスター・パーティレースのスーパースターにして伝説のチャンピオン加藤さんとのチームですから、役者は揃っていますよね。

耐久レースには、レギュラーシーズンで参戦したことがないので、参加する時は100%サテライト・チーム、すなわち即席チームです。勝ちに行くチームからソコソコ楽しめれば!というチームまで色々です。今回のaheadチームは何れとも異なりました。

このチームの魅力はなんと言っても若林さんだったと思います。レースが楽しかったというより、若林さんの感動ドキュメントにご一緒した…青春スポ根感動ドラマに出演させてもらった感じでした。今年は「やりきった!」みたいな感動がありましたが、彼女がある程度のキャリアを経て、本当にレースに参戦している実感を得た時に、レースとしてチームとして価値のある実態が出来るんだろうなぁと思っています。

そういう意味では、今年はエピソード1だと思っています。長く続くチームになれば一層盛り上がるでしょうね。

佐野 新世

ロードを始め、エンデューロ、ダカールラリー、スーパーモタードを経て、今年から四輪にも挑戦している。

とにかくマシンうんぬんもそうだけど、ドライバー、スタッフなどの人間模様が面白い。それぞれの得意分野を生かして仲間が集まったという感じです。

それにしても、ロードスターは難しかったです。車体のロールが大きいので、慣れるのが大変でした。最後の最後まで慣れない状態で終わってしまったのが悔しいところです。

運転中、無線(電話)越しでチームの現場監督であり、その日のロードスター・パーティレースで優勝した泉 多美宏さんに「もっとペース上げて下さい」って、言われ、もうタジタジでした。「出来るだけ頑張ります」って答えましたけど、心の中では「そんな簡単にペース上げられたら、みんなF1ドライバーになれるだろ!!」って半分怒っていました…同時に僕自身の経験の少なさ、運転の引き出しが少ないんだなとも痛感しました。

いろいろありましたが、大きな事故もなく完走できて嬉しいですし、収穫も大きかったです。このレースでロードスターに乗った後、数日後にレース用のトヨタ86でサーキットを走りましたが、大幅なタイムアップをしました。全てはこの難しいロードスターと皆さんのおかげでしょう。

クルマのレースって、クルマの性能差、チームの資金の差で順位が決まることが多いけど、ワンメイクで全車が基本的にイコールコンディションのマシンというのは、純粋に腕を上げるために勉強になるし、また腕だけの対決が楽しい部分だと思えます。
機会があればまた出たいですし、僕自身、リベンジをしたい気分です。

若林さんはモンゴルラリーに出ていることからも分かるように、基本、負けず嫌い。なんだかんだ言っても、最後まできっちりという感じでした。走行後の涙が印象的でしたね。相当崖っぷちで練習してきたんだと思いました。

B-sports 三城伸之

メディア対抗ロードスター4時間耐久レース主催

レース主催者の立場ですので、どの参加者も公平に見るというのは大前提ですが、若林さんがサーキット走行やレース経験が浅いことは承知していましたので、結果よりもとにかく無事に走行を終えられることを祈っていました。

どんなスポーツにもミスは付きもので、それが上達のステップアップになるのも同じですが、サーキット競技はミスがクラッシュなどの重大事故に繋がる可能性があるからです。逆に、経験を積むほどミスをカバーできる技術を身に付けられるので、大きな事故を起こす確率は減っていきます。

モータースポーツは自動車を使う競技です。特に4耐は、ロールゲージなどの安全装備以外は市販車をほとんど無改造で使用しています。

市販車は老若男女を問わず運転ができるよう設計されていますので、スポーツの道具として考えれば、女性だから扱い難いということはありません。

F1のような強力なGが発生するレーシングカーになれば、男女の身体的なハンデ差が生まれますが、このレベルのクルマではほとんど無いと言っても過言ではありません。参加しているドライバーも、今回は仕事でクルマに触れている時間の長い方が多いですが、結構年輩の方が多いですよね。

ただ、一つ挙げるとすれば、レースの参加層は圧倒的に男性が多く、正に男社会ですので、その面では女性が感情的に入り難いのは理解できます。しかし、男性が多いのは、モータースポーツがそれなりの金銭的な負担が多い競技であり、それを負担できるのであれば、決して女性だからどうこうということはないと思っています。

マツダ株式会社

国内広報部

4耐に女性が参加することについては、特別なものは感じていません。もちろん大歓迎です。むしろ、初めて、それも短期間の練習で、4耐に飛び込んでいただいたこと、スゴイと思っていますし、決心してくださったことに本当に感謝しています。

実は、練習記事なども含め若林さんが準備をされる様子を拝見し「私も走ってみたい」と思いましたし、同じように感じた方もいたのでは。

ポールスタートのおまけつきで本当に緊張したと思います。立場上大きな声では言えませんが、私もaheadのチーム員と同じ気持ちで応援させてもらいました…し、手に汗握らせてもらいました。

伊丹 孝裕

二輪モータージャーナリスト

若林さんは、それが年に1回にしろ、数年に1回にしろ、時々は自分を奮い立たせる何かがないと〝生きてる感〟が味わえない人だと思うので、たまたま今回の4耐がそれだったのだと思います。だから、出ようとすること自体まったく驚かなかったし、「なんかまたやることを見つけたんですね」っていうくらいの感じ。それくらい自然で、いい意味で普通。

何かをやると決めたら、それに必要な人や物、条件がどんどん整っていったり、整えようとするモチベーションが湧いてくる快感を知っている人でもあると思うので、準備に関しては何も心配もしていなかったし、レースもどうにかするんだろうっていう安心感がありました。

女性がモータースポーツをする際、すべてのカテゴリーとは言わないまでも、男性との肉体的なハンデが少ない、もしくは上回れるのがモータースポーツなので、どんどん参加すべきでしょう。体力や筋力よりも「正しい知識と組み立て、それと入念な準備」次第で、いくらでも上を目指せるスポーツかと。

ただし、多くの場合は踏み込むきっかけがないだけだと思うので、若林さんを含めて、いろいろな女性にいろいろな競技に参加してもらって、それを伝えて欲しいと思います。若林さんのレーシングスーツ姿での2輪デビューもお待ちしております。

菅原 義正

ラリー・ドライバー

若林さんとは国内のラリーやモンゴルラリーを通じて一緒にやってきたけど、意外と女性っぽいところがあるね。ラリーでドライバーをするなら、もっと精神的な男っぽさが必要かな。

精神的な男っぽさというのは、一つには、機械に対し興味があること。例えば、一緒に九州で林道を走ったとき、バックでアクセルを踏みすぎて横転した。僕から見ると、3回くらいブレーキを踏むタイミングを、クルマが〝お知らせ〟してくれていた。

でもそれに気付かない。機械的なことに興味を持って、「こうすればこう動く」、「どうしてこう動くのか」ということまで透けて見えるようになることは、モータースポーツをする上で大事なこと。

一度買ったギア付きのクルマを手放したくらいだから、MTは苦手なはずなんだよ。それなのにロードスターでレースに出た。思いきりと勢いのよさ、一生懸命なところに共感している。

読者に伝えるために、ラリー、サーキットとモータースポーツをやっているのはすごいのだけど、心と身体がピッタリくっついてきたらもっと素晴らしいね。

でもプロドライバーになるわけじゃないんだから、普段は机で仕事をして、年に1度くらいはモータースポーツをするペースでもいい。とにかく続けていくことだと思うよ。

瞬発力が必要なレースはさておき、ラリーのような、何もなく厳しい環境での長丁場は女性の方が向いているかも。一般的に、女性の方が環境に順応するのが早い。いい意味で精神的に図太くて我慢強いんだね。それに失敗したり怒られたりしたとき、その場ではすごく落ち込んだり泣いたりするんだけど、次の日はケロリとしている。

その点、男はクリスタルだから。失敗したり怒られたりしても、シュンとはならない。何てことない顔をしてギリギリまで気張っている。でも、ふと核心を突かれたり、限界を超えるともうバラバラ。ヒビじゃすまない、回復力がないんだよ。女性は例えるなら風船かな。しぼんじゃっても、ちゃんと戻ってくる強さがある。

腰山 峰子

伝説の女性ライダー、堀ひろ子さんの唯一の相棒として若い頃から二輪のレースに出場。結婚、子育てで一度、レースから離れた後、復帰。関西のサーキットを中心にレースに出場している

女性にとってモータースポーツのいいところと言えば、マシンの性能やテクニックによって、女性でも男性の前を走ることができるスポーツであることですよね。

モータースポーツは男女分けがありません(レディースモトクロスなど一部ロードレースなどにも男女分けのあるものもありますが)。レース中は男も女も関係なく、人より前に出ること! 譲らないし、ミニレースなどは当ててでも前に出ようとするコトがあります(私は当てませんが、当てられて転倒したこともあります)。

遊びと言えども真剣ですから、表彰台を狙っているライダーは容赦なしです。クラス混走の耐久レースでタイム差があり、ラップされる時など恐ろしい時があります。後姿から女性だと分かっても関係ないですよね。

スタート前のありえない緊張感に、毎回エントリーしたことを後悔するのですが、ピットロードからコースに出た時、そして結果はどうあれ無事にチェッカーを受けることが出来たときの解放感と安堵感は格別です。

ただ、レースは一人では出来ません。ヘルパーやメカをしてくれる友人たちが、自分のために一生懸命に動いてくれている姿は感動ものですし、確実に力をもらっています。

また、関東のサーキットではありえないと聞きましたが、岡山や関西の小さなサーキットでは前夜祭をするのが通例で、決勝前日はピットで宴会するチームが多いです。大好きな人たちと、大好きなバイクに囲まれて、バイクの話、レースの話を、お酒を飲みながらワイワイと。

私はここでピットキッチンと称し、チームの皆や友人たちに出来たての料理を振る舞うのが大きな楽しみです。「疲れないですか」「元気ですね」とよく言われますが、平日にガンガン仕事をして、週末にサーキットで癒されています。

竹岡 圭

モータージャーナリスト

レースって「コイツを速く走らせるために一丁やってやるか!」と、チームの人に思わせられるかどうかで勝敗が決まるところがあるんです。だから人間関係ってすっごく大事。家族…う〜ん違うな、学園祭とか体育祭とかで力を合わせる同級生に近い感覚かな。

女性には厳しい現場です。暑いし、寒いし、汚いし、うるさいし。いちばん大変なのは、着替える時。男性は平気でパンツ一丁になって着替えていますが、女性は下に水着を着ている人もいたなぁ。あと走った後はお化粧もグチャグチャになっちゃうしね。でも基本は、女性だからといってまったく気を遣われない現場です。だから、図太くなります。

コース上では、マシンの差はあるものの、男女の力の差はあまり関係ない世界といえるかも。逆に女性の方が持久力はあるから、耐久レースでは強かったりするんだよね。でも女性は空間認識能力が弱いという生まれながらのハンデがあるから、同等に戦うのは結構大変。あとシートポジションも、女性の体格では合わせるのが大変。私は小柄なので、これがいつもいちばん苦労します。身体がホールドされないからハンドル操作しにくいし、視界は悪いし。

レース中、ピットと通信できるのはすごく安心感がある。無線でも電話でもサインボードでも、誰かが見守っていてくれる、誰かが待っていてくれるって思えるのってすごく心強いことなんだなぁといつも感じます。

まるも 亜希子

カーライフジャーナリスト

幼稚園の頃からリレーの選手で、バスケットも6年間やっていて体育はオールAだし、運動神経やスタミナには自信があったのに、26歳の時の最初のレースではもうボロボロ。普段の運転だって決して下手ではないと思っていたのに、「あたしの何がダメなの?」って自信喪失したくらい、ショックでした。

クルマという機械を使うとはいえ、やっぱり気力、体力、筋力、判断力、度胸、いろんなものが勝負に関係してくると思います。男性ドライバーが引いたサイドブレーキがどうしても私の力では降ろせなかったり、4点式ベルトを男性に締めてもらうとしっかり固定されたり、細かい場面で男女の差を実感することが多いのがモータースポーツ。でも、私はそのことがイヤではなく、男性はすごいな、と素直に尊敬できる場です。

その反面、メカニックがボルトひとつ締め忘れただけで、死につながるのがレース。だから、極端に言えば「もし死んでもあの人のやったことなら許せるな」と思える人じゃないと、一緒にやりたくないんです。そういう意味で、年齢も性別も立場も関係なく、人間対人間の付き合いができる貴重な場。命がけの時間を一緒に過ごすわけだから、ずっと一緒にやっている人たちとの絆は深いですね。

そうした仲間たちがいつも守ってくれている、と思える反面、いったんコースに出てしまうと孤独な闘いだな、とも思います。準備をしてくれた人たちの想いに応えなければいけないので、プレッシャーは相当なもの。思うようにタイムが出なかったり、ぶつけてしまった時なんかは本当にへこんで、もう一生やりたくないと思う時もあります。でも、少し経つと「よし、次こそは」って闘志が湧いてきて、なんだかんだ10年以上も続けてしまっているんですよね。結局は、「自分との闘い」の部分が大きいのかもしれません。

自分のメンタルの弱さを実感するのもレースならではです。みんな、平静なようでいてどこか追いつめられていたり、テンパっていたり、思いもよらない行動をとることがあって、それもすべてメンタル。だから正直、コースに出る前後は楽しいのだけど、コース上で走っている時に手放しで楽しいと思ったことはないんです。いつも、「なにごともなく無事にバトンタッチできますように」って祈るように必死で走っているから、疲れるのなんの。ピットインした時は心底から「よかった〜、私の役割果たせた〜」って安堵感でいっぱいになるのです。

丸山 浩 

モータージャーナリスト

女性にとって、レースに参加することへのハードルは相当高いと思う。でも男性よりも、一線を越えた時の飛躍はすごい。

今年、「もてぎオープン7時間耐久ロードレース」(二輪)に女性チームを出場させたのだけど、最初メンバーがいなかった。そこで走行会に来てくれている人に「出てみない?」と声を掛けるところから始めたが、頑に拒否された。ノリで参加する男に比べ、「親が、彼氏が」など、みんな自分なりの防戦をきっちり守っている。

ただ、その一線を超えたら、男以上にのめり込む。あんなに頑に拒んでいたのに、割り切った時の飛躍はすごい。出来ない理由に周りを(親が、彼が…)挙げていたのに、最終的には自分で決めてしまうところがある。結局、理屈じゃなくて自分が気持ちいいかどうかで判断する(できる)んだよね。

レースって、今までの生活スタイルを変えざるを得ない面がある。これまで守っていたものを捨てなきゃいけない。でも逆に考えると、自分をガラリと変えるチャンスと言えるのでは? だからレースをやると、また新しい世界が見えてくるんじゃないかな。

佐藤 瑞樹

作家・俳優。'80年代より本格的に2輪&4輪レースに参戦。世界GPの現場も知る、数少ない女性

10代からこれまでの自分を振り返ってみると、かつて男性と同じように速さを追求し、全てをかけた私の生き方は、一人の女性の人生としては賢くなかった…。最近改めて、そう感じています。その点、若林さんの場合は「とっても自然でしなやか」。彼女は女性がレースに取り組む姿勢として、ベストウェイを体現なさっている方ですね。

近年サーキットでは、一般車両でも参加OKなイベントが多数あります。基本原則は「コーチャブルである(コーチに徹底的に従う)」こと。広い視野で考えてみると「交通教育」は、社会で活躍する女性の精神的鍛錬・交通スキル訓練の場として、大変有効。将来ご自分のお子さんを事故から守るためにも、エマージェンシー教育(緊急挙動訓練)を受けておくことは、非常に大切、かつ重要です。

特に「スキッドリカバリー」体験走行は、万が一の事故の際、必要な知識を得られます。一度で良いので是非体験なさっていただきたい。緊急事態に直面した時「それまで知らなかったご自分」に、出逢うことができる。それが先々、運命を左右することがあります。

現代の女性に最も必要なことは「本当の強さとやさしさ」を獲得すること。そのためには、単に楽しいというのとは違った、自分の人生に生かすことのできる大きな「何か」が必要。「自分の人生のハンドルは、自分で動かす」。そして、〝助手席に乗るだけの女〟より、「安心して、助手席に男性を乗せてあげられる女性になる」 。そのほうが、人生は面白くなるかもしれませんね。

Mizki Sato☆http://ameblo.jp/mizki777

村上智子

ahead編集部

4耐を一緒に観戦しながら篠原さんの奥様に、「心配じゃないですか?」と聞いてみた。すると「主人は、モンゴルラリーを通じて、すごく沢山のことを学んだと言っていた。ギリギリの状況でも冷静さを失わず、自分をコントロールすることとか…。サーキットで走る時も同じみたい。だから信用している」と。

想像でしかないが、極限状態で自分をコントロールしなければいけない場面に多くぶつかると「ここまではいけそう」「ここは、ほんとにムリ」という自分なりの地図ができるのかも知れない。若林も多分そうなのだろう。4耐出場を聞いた時は、「なぜ?」と驚いたが、自分の中では闇雲に無謀なことに挑戦しているわけではなく、ラリーで養った感覚で、自分なりの判断力やイメージを掴めているんじゃないかと思った。

苦手だったり自分に向いていないと思っていても、やってみたいことって誰しもある。でも恥をかきたくないとか、日本人的に言えば、周りに迷惑をかけるのが嫌だから、自分の気持ちを押し殺すことも多い。その意味で、女性にとってモータースポーツは最たる物。そこでみんなに「協力してください」と頭を下げるのは、勇気がいる。しかも仲間になってもらって、心から応援してもらえる環境を創り上げなければならない。

最初は、その必要性がよく分からなかった。例えば、F1やMotoGPなどで「スタッフとマシンをうまく開発できる選手」という言葉を聞いても、スタッフが選手のために努力するのは当然でしょう、と思っていた。でも、若林のラリー、さらに4耐を通じて、レースは一人じゃできない=ビジネスや義務感の枠を超えて周りに「協力してやろう」と思わせるその人の魅力・求心力があって初めて成り立つのだなと実感した。そのためには、自分のダメな部分を素直にさらけ出す勇気と依存しない心が必要。自分の生活を振り返っても、これはなかなか難しい。走る技術だけじゃなく、人間力や社会力も磨く場なのだなと思う。

-----------------------------------------------
text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。
【お得情報あり】CarMe & CARPRIMEのLINEに登録する

商品詳細