誇りの持てる日本のブランド

グローバルブランドの地位を築いたスバル 森口将之

アヘッド SUBARU BOXER DIT
アヘッド スバル

写真は今年6月、日本国内専用モデルとして発売された「レヴォーグ」である。「レガシィ」が北米市場を意識して大型化したことを懸念する日本のファンのために開発された。コンセプトは「(日本の)旧世代レガシィのお客様に喜んでもらうクルマ」だったという。スバルは、日本の市場を軽視してはいない。

うれしいニュースが11月に飛び込んできた。「ワールドウイスキーバイブル2015」という英国のガイドブックで、サントリーのシングルモルトウイスキー「山崎シェリーカスク2013」が最優秀と認められたのだ。「ウイスキーバイブル」が発刊された2003年以来、日本のブランドが最優秀となったのは初めてのことだという。

このニュースが伝えられた日本では、NHKの朝ドラ「マッサン」が、ライバルのニッカウヰスキー創業者をモデルとしていたので、対抗手段として手を回したんだという声まで飛んできた。でも専門家の間では、以前から「山崎」は高い評価を受けていたとのこと。海外も例外ではなく、「受賞は遅すぎた」という声さえあったほどだ。

僕はウイスキーについての知識はゼロに近いので、このジャッジが正統かどうか断定はできないけれど、一連の状況を目の当たりにして、日本人のブランドに対する理解はまだまだだし、欧米人のブランドに対する考え方をもっと学ぶことが大事ではないかという気がした。
その点で参考になりそうなクルマが日本にある。富士重工業の自動車ブランド、スバルだ。

スバルは熱狂的なファンを持つブランドとして知られている。彼らは「スバリスト」と呼ばれる。人気の根源は、低重心の水平対向エンジンと左右対称4WDシステムが生み出すスポーツ性にあるようだ。ところが北米では、スバリストの位置づけはちょっと違う。日本のような走り屋もいるけれど、それよりもっと生活に根付いた部分でこのブランドを評価している人が多いようなのだ。

もともとスバルはニューヨークやボストンなど、アメリカ東海岸で昔から根強い人気を得てきた。北米の中でも知的水準が高い地域であり、西海岸より長く厳しい冬があるという状況の中で、水平対向エンジンと4輪駆動という個性的なメカニズムが生み出す走行性能の高さが、ユーザーの心を捉えてきた。

彼らが好んだのはWRX・STIに代表されるスポーツモデルよりも、むしろレガシィ・アウトバックやフォレスターのようなSUVやクロスオーバービークルだった。ヘビーデューティ4WD並みの走破性を誇りながら、乗用車そのものの洗練性を併せ持ち、低重心で左右対称という独自のレイアウトが、背が高いのに腰高感がなく、天候や路面に左右されない走りを生んだ。その点が評価されたようだ。

しかもスバルは1970年代はじめから、このメカニズムを使い続けている。40年以上の歴史を持つわけだ。もうひとつのスバルの代名詞であり、SUV作りの基礎にもなったワゴンも、同じ時期に生まれた。

ともにレオーネというクルマで採用された。我が国のエンスージァストは、レオーネの前のスバル1000のほうが技術的に突き詰められていて、レオーネはデザインを含めて商業主義に毒されたと言う人が多い。でもこの時代に、北米でのスバル人気の礎が築かれたのも事実である。

そして21世紀。富士重工は一大決心をした。それまで20%の株式を保有していたGMが経営不振になったことを受け、トヨタと資本提携をして、国内向けの軽自動車やコンパクトカーはトヨタやダイハツとの兄弟車とした。一方レガシィやフォレスターは、北米マーケットの好みに合わせて大きくした。とくにレガシィは先代で一気にサイズアップ。日本では肥大化したという声も聞かれたが、北米ではこの転換が受けて大ヒットになった。

国内固有の事情には提携の枠組みで対処し、北米をはじめとする海外は独自のテクノロジーやユーティリティを付加価値としてアピールした。その結果、営業利益率、つまり売上高に対する利益の比率は飛躍的に向上した。今年4~9月の数字は13・4%。トヨタ、日産、ホンダのみならず、なんとメルセデス・ベンツやBMWより上だ。

北米への依存度が高すぎるのではないかという意見もある。それは彼らも感じているようで、今後は中国やロシア、ブラジルなど新興国に力を入れていく予定だとか。でも低価格車で攻めるわけではなく、レガシィをはじめとする付加価値型プロダクトを提案して、ブランドイメージを高めようとしている。

だからスバルは、台数ありきではない。北米から「クルマが足りない」と言われ続けているのに、現在の生産設備の中で可能な増産に留めている。それよりもクオリティが大切だと思っているからだろう。新たなメカニズムに手を出すこともせず、水平対向エンジンと左右対称4輪駆動システムを磨き上げていく姿勢を崩さない。

数を追わず、背伸びもせず、個性を売って高い利益を出す。スバルの進む道はプレミアムブランドそのものである。富士重工が先進的なのは技術だけではない。グローバルでの評価を信じ、いち早く付加価値型ものづくりに切り替えた、思想の先進性も好調の要因ではないかという気がしている。

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text:森口将之/Masayuki Moriguchi
1962年東京生まれ。モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・テレビ・ラジオ・講演などで発表。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、グッドデザイン賞審査委員を務める。著作に「パリ流 環境社会への挑戦」「これから始まる自動運転 社会はどうなる!?」など。

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