トライアンフ モーターサイクルズジャパン 新社長インタビュー

「トライアンフという伝統のブランドを日本で広げたい」

アヘッド 野田一夫

野田一夫 / Kazuo Noda
1969年3月6日生まれ 福岡県出身
1993年 マツダ株式会社入社
2001年 BMWジャパン入社
2006年 BMWファイナンス入社
2007年 アウディ ジャパン入社
2013年 トライアンフ ジャパン入社
2014年 トライアンフ モーターサイクルズジャパン代表取締役社長就任


というのも、野田さんはこれまで一貫して4輪業界を歩んできた人物だからだ。大学を卒業後、最初に入社したマツダでは車両実験部に在籍し、7年間に渡って様々なテストを担当。

その後BMWジャパン、そしてアウディジャパンへと迎えられ、営業や商品企画の要職に就くなど、ビジネスの最前線で実績を残してきたのである。そのキャリアが見込まれて、トライアンフ・ジャパンには昨年副社長として入社。およそ1年の準備期間を経て、その経営を託されることになったというわけだ。

思えば野田さんが籍を置いてきた4輪メーカーはいずれも好調そのもの。一方のトライアンフは世界屈指の歴史こそあれ、そのシェアは2輪の中でもメジャーとは言えず、まして4輪の規模とは比較にならない。そういう実情への不安はなかったのだろうか。

「トライアンフというブランドは2輪フリークの中では認知されていても、そこから一歩出るとマイナーな存在と言えるかもしれません。しかし、なにより将来性を感じたのはそこに携わる〝人〟 です。イギリス本国のメンバーはもちろん、日本のスタッフもディーラーの皆さんも例外なくトライアンフを誇りに思っている。そういう熱い思いに様々な場面で触れることができたので入社に迷いはありませんでした」

アヘッド トライアンフという伝統のブランドを日本で広げたい

彼らが夢中になるトライアンフとはどういう存在なのか。野田さんはそれを知るべく、入社前の自身に大型2輪免許の取得を課した。

「私の職務はバイクに上手に乗ることではなく、ビジネス面からトライアンフを支えること。本国からも必ずしも免許は必要ないと言われましたが、かつて開発や商品企画に関わっていた経験上、乗らないと分からないこと、分かり合えないことがたくさんあることも身に染みていました。ですから仕事を進める上でも免許は必要な資格だったんです」

実際、野田さんはそれを見事クリア。以来、どこへ行くにも積極的にバイクに乗り、近隣のカフェに行く時ですらショートツーリング気分を楽しんでいるという。44歳になってからの2輪デビューのため、ライダーとしては遅咲きかもしれない。しかしだからこそ感じられるバイクの、あるいはトライアンフの魅力をこう語る。

「バイクは暑さ寒さも含めてすべてがダイレクトで刺激的でしょう? 走り出した瞬間から開放感で満たされますし、無味無臭になりがちな日常から連れ出してくれる。こんな世界があったことを知らずに過ごしてきたことを後悔しています。なによりトライアンフはレースやサーキットに特化していなくてもしっかりとした性能があり、誰が乗っても扱いやすく、取り回しも軽快。しかもタフな作りも持ち合わせていますから一度手に入れると長く付き合うこともできる。いい意味で大衆的というか、プレミアムなブランドでありながらすべてが手の届くところにある絶妙なポジションが魅力でしょうね」

そんなトライアンフを象徴するひとつのキャッチコピーが、〝FOR THE RIDE〟だ。つまり、〝すべては走るため〟。あの手この手でインパクトのある広告を打つわけでも、お手軽なドレスアップで付加価値を高めるわけでもなく、走るための基本性能を高め、それをじっくりと熟成させる。それはイギリス文化そのものに通じる価値観と言えるだろう。

「まさにそうです。しかし、近年のトライアンフは商品戦略や価格も含めてライバルを横目に見ながら戦ってきたことも否めません。言わば、限りあるニーズの中でシェアを高めようとしてきたに過ぎず、それを飛び越えたところでユーザーの心を掴むのは難しい。私たちトライアンフには積み重ねてきた確固たる歴史や文化があります。それをより多くの方々に広め、バイクというよりもトライアンフというブランドを手に入れることに価値を見出して頂き、お客様の満足度を引き上げる。そういう意識に切り替えていくことが大きな仕事のひとつだと考えています」

そのために必要とされているのが野田さんの手腕に他ならない。

「2輪ビジネスの良さは売る側も買う側も同じ趣味仲間という意識で繋がっているところでしょう。ただし、時にそれが足かせになり、モノを売ることに抵抗や罪悪を感じてしまうんですね。結果的に利益度外視で修理を請け負ったり、レジャー的なアクティビティが優先され、経営を苦しめてしまう。4輪と違ってお客様との付き合いが密なだけに、ビジネスとなると途端に一歩引いてしまう方が多いようです。だからと言ってドライにモノを売りつけろという意味ではありません。バイクでもパーツでもウェアでも新しいモノを積極的に紹介することで次のステップに行くかどうかのきっかけにして頂く。それがお客様の歓びになり、ディーラーのうるおいにもなる。そういういい関係性を構築して頂きたいんです。なにより私自身トライアンフに乗り、その価値を知ることができたわけですから。その道筋をきちんと整えることが4輪業界で培ってきた私の経験であり、責任だとも思います」

近い将来トライアンフは順次新しい商品構成へと移り変わっていくことだろう。その時、バイクという趣味がいざなってくれる時間がいかに素晴らしく、生活に彩りをもたらしてくれるか。それを自らの体験を通してピュアに語れるトップがいることの意味は大きい。トライアンフの攻勢が静かに始まろうとしている。

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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。

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