F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Vol.51 加速するル・マンへの流れ

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2015年にル・マンに復帰する日産のプロジェクト責任者は、ル・マンのパドックでこう言った。「ウチのホスピタリティにはヨソのチームのドライバーがひっきりなしにやってくる。よほどウチのコーヒーがおいしいんだね」と。顔を売り込みにやってくるドライバーの行動をジョークで包んだのだった。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.140 2014年7月号]
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Vol.51 加速するル・マンへの流れ

Vol.51 加速するル・マンへの流れ

▶︎メーカー同士の争いが鮮明なのがル・マン/WEC。F1はもっとドライバーの争いを強調すべきだと思うが、近年は技術偏重のきらいがある。それにしてはパワーユニットを開発する自動車メーカーの独自性が、外から分かりにくい構造になっている。

現状に不満を抱くフェラーリは(単に力不足という話もあるが)、自分たちの主張が受け入れられないなら「ル・マンに行くぞ」と脅しをかけるのが常だとか。ちなみに、82回目を迎えた今年のル・マンでは、F.アロンソがスタートフラッグを振った。


カートで頭角を現し、ジュニアフォーミュラで成績を残してミドルフォーミュラにステップアップ。シリーズを制してF1への切符を手に入れるのが、頂点を目指すドライバーのお決まりのルートだった。

ところが最近、その流れが変わりつつある。ミドルフォーミュラまではフォーミュラの階段を上るが、最後のステップはF1ではなく、ル・マン24時間をシリーズの一戦に含むFIA世界耐久選手権(WEC)に定めるドライバーが増えている。F1がますます狭き門になっているという切実な事情がそうさせるのかもしれないが、敏感な嗅覚が世の中のル・マンへの流れを嗅ぎ取っているのかもしれない。

「耐久レースのドライバーがフォーミュラを経験することはいいことだ」と、あるWEC参戦チームはミドルフォーミュラのチームを結成し、ドライバーが両シリーズを行き来できる体制を整えた。

F1人気が低下しているとは断言しないが、ル・マンへの流れが加速しているのは確かだ。今年のル・マンは最上級カテゴリーのLMP1にポルシェが復帰し、アウディ、トヨタと三つ巴の争いを演じた。集まった観客は26万3300人。過去2年間は24万人強で推移していたから、10%近い増加である。冒頭で触れたように'15年には日産が復帰する。さらなる盛り上がりは必至だ。

ル・マンが盛り上がりを増す背景にあるのは、参戦するメーカーごとの個性が明確だからだろう。アウディはディーゼル、トヨタはストロングハイブリッド、ポルシェは過給ダウンサイジングを目玉に「ウチこそが一番」と技術を競う。NISSANGT|R LM NISMOを投入する日産は、「ライバルたちとはまったく異なる方法で勝ちたい」と宣言。「LMP1プロジェクトを通じて開発した技術を次期GT|Rに移植する」と明言している。

エコに配慮した技術フォーマットを導入したのはF1も同じだが、ル・マンのようにメーカーやチームが個性を発揮できるような規則の内容になっておらず、画一的に見える。技術も大事だが、F1にとってもっと大事なのは、ドライバーの個性がコース上で発揮できるような枠組みになるよう知恵を絞ることだろう。

ドライバー個人のスキルよりチームワークが重視されるル・マンにファンの意識も、ドライバーの意識も流れているのは、なんとも皮肉だ。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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