SPECIAL ISSUE GLOBAL

世界統一サービスを掲げるアップルやグーグルなどのIT系企業がそれを牽引してきたのだ。
日本はアメリカや欧州とは違うと日本の事情ばかりを主張していては置いてきぼりにされる時代になっている。
特に日本のクルマ事情は独自性が強く特殊な国と呼ばれて久しい。
今、世界的な流れであるグローバルと日本のクルマの関係を考えてみたい。

MX-5グローバルカップが掲げる世界への道 伊丹孝裕

アヘッド GLOBAL

モータースポーツで夢を見ることがどんどん難しくなっている。

2輪にしても4輪にしても「世界」と名のつくカテゴリに辿り着こうとすればなおさらのことで、自転車に乗るよりも先にポケットバイクでバンクする感覚を覚え、理屈は分からなくても荷重とアクセルで車体の向きが変わることをカートで知る。そんな環境が小学校入学以前に整っていなければ、その権利はほぼない。

免許を取ってから夜な夜な峠を走り回り、アルバイトに明け暮れながらレース資金を捻出して…などという悠長な時間はないのだ。ましてそこから溢れる才能を武器に瞬く間にトップカテゴリへ駆け上がっていくようなシンデレラストーリーはほぼ絶滅したと言ってもいいだろう。

現実的には多くの人がモータースポーツのスタートラインにすら着けず、着けたとしてもそこに留まり続けるしかないのである。そんな現状の中、新たなカテゴリのレースが発表された。それが、マツダが協賛する「グローバルMX-5カップ・ジャパン」だ。

MX-5とはロードスターの北米仕様の名で、いわゆるワンメイクレースのことを指す。主旨としては日本のロードスター・パーティレースと同様ながら、排気量や足回りを始めとする仕様が国によって異なっているため、それらを統一して世界一決定戦を行おう、という発想で立ち上げられたシリーズ戦である。

「クルマを使ったオリンピックのようなものかもしれません。車体のセットアップとドライビングだけで世界一になれる可能性がある。その意義はとても大きいのではないでしょうか。ドライバーができることは車高とスタビライザー、ダンパーのセットアップ、そしてアライメントの調整程度で、あとは完全なイコールコンディション。レース専用車ならではの動きとセッティングの基本が学べるいい素材だと思います」

そう語るのはマツダ・ロードスターのチューニングやシミュレーターによるドライビングレッスンで知られるTCRジャパンの代表であり、国内外の様々なレースでも活躍するプロドライバー加藤さんだ。

来年はこのカップカーによるレースを国内で5戦行い、ポイント上位のドライバーはアメリカのラグナ・セカにて開催される世界一決定戦の出場権を得ることができる。そこには世界各国のシリーズ戦を勝ち抜いてきたドライバーが集結するため、まさにグローバルの名にふさわしい規模になるに違いない。

なにより注目すべきは、さらに上へステップアップできる可能性も秘めていることだろう。というのも、北米のMX-5カップの成績優秀者には上位カテゴリへの足掛かりを掴めるラダーシステムと呼ばれる育成プログラムが用意され、その先にはフォーミュラやプロトタイプのIMSAシリーズさえ含まれているのだ。

日本でもそれに倣ったスカラシップが構築されるかどうかは未定ながら、日本一から世界一へ、そしてプロへ。もしもそんなレールが敷かれたならエントラントのモチベーションは大いに刺激されるに違いない。

もちろん、内容を踏まえればかなりリーズナブルだとしても788万4000円という車両価格は絶対的には安くはなく、誰もが気軽に踏み込めるわけではない。そして、ワンメイクであるがゆえに直面する現実もある。

腕だけで勝負ができるとはいえ、それを優位に進めようとすると重箱の隅をつつくようなチューニング合戦になり、少しでもいい状態のパーツを使おうとすればメンテナンス頻度が飛躍的に上がるのがこうしたレースの常だからだ。結果的にそれらはランニングコストに跳ね返ってくる。

それでもその先に「いつか」や「もしも」の未来があるのとないのとでは大きく違う。MX-5カップでレースに入り口に立つということは、その夢を見る心地よさとそれを引き寄せる権利を手に入れることでもあるのだ。

今ある多くのモータースポーツにはそれが決定的に欠けているため、サーキット走行会は盛況でもそこから実際にレースを始める人は限られ、参加型レースにエントラントは集まってもその上を目指す気になれない。

その空洞を埋め、レースとレース、今と将来の橋渡しになってくれる可能性が「グローバルMX-5カップ・ジャパン」にはある。マツダにはそれをカタチにし、継続していくことを期待したい。

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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。

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