私の永遠の1台 VOL.8 ポルシェ 911 カレラ(930型)

VOL.8 ポルシェ 911 カレラ(930型)

アヘッド ポルシェ 911カレラ

930初期型のカレラ2.7('74年)

アヘッド ポルシェ 911カレラ

カレラ3.2('84年)

▶︎"ナロー"と呼ばれた初期モデルから発展するかたちで登場。'74年から'89年まで生産されたのが通称"ビッグバンパー"こと930型だ。'84年に空冷フラット6エンジンの排気量を3ℓから3.2ℓに拡大するとともに伝統の"カレラ"というネーミングが復活。岡崎家にあったのはトランスミッションがポルシェシンクロ式からボルグワーナー式に変更された'87年式だ。


そんなハイテクカーと同じ時代を生きていたのが930型と呼ばれるポルシェ911だ。'64年の登場以来、20年以上にわたって基本設計を変えず、しかし一級品の性能を保ち続けてきたスポーツカー界の雄である。

学生時代、我が家には'87年式の911カレラがあった。どんな寒い朝でも3.2ℓフラット6は一瞬のクランキングで目覚めた。これはまさにエレクトロニクスの恩恵だ。けれどブレーキにABSはなく、サスペンションにも電子制御デバイスの類は一切なし。

街中を普通に走っていてもコックピット内には高周波成分を多く含んだ刺激的なサウンドが響き、「スポーツカーに乗っているんだ」という実感を強く味わわせてくれた。背中で感じる加速度ではなく、ましてやスピードメーターが指す数字でもなく、音や振動でスポーツカーらしさを伝える…こいつは現代のスポーツカーが失ってしまった魅力である。

とはいえ、タイヤが少しでも減ると乗り心地とロードノイズが目に見えて増えるという弱点はいまでも思い出す。誕生以来、ひたすら高性能化と刺激性を追い求めてきた空冷911だが、930型に至って、ついにほんの数㎜というゴム層で快適性を担保する実にアンバランスさなクルマになってしまったのである。

以降の911、とりわけ水冷化された996型からは電子制御デバイスをフルに活用した「洗練と刺激とスピードの両立」を目指したクルマへと移行していくことになる。その結果、全車ターボ化された最新の911は文句なしに素晴らしいクルマになった。機械工学と電子工学の調和は見事と言うほかない。

ならばどうして空冷911の中古車価格が高騰しているのか。「なぜスポーツカーに乗るのか?」と問われたとき「速いから」ではなく「楽しいから」と答えるメンタリティーの持ち主ならこの難問に答えを見いだせるだろう。930型には紛れもなく、究極の機械工学が醸しだすプリミティブな機械の魅力があった。

自動運転が現実味を帯びてきた現代においてなお、そんなキャラクターを求める人がいることに僕はクルマの未来を見いだす。そう、いかにエレクトロニクスが進化したとしても、機械工学の追求はクルマ作り永遠のテーマなのだ。

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text:岡崎五朗/Goro Okazaki
1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイトなどで活躍。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』に出演中。

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