東京エスプリ倶楽部 vol.2 自転車から学んだ旧車の自己責任

アヘッド 東京エスプリ

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8月下旬、友だちに誘われて初めてのサイクリングを敢行した。山梨県の身延にある彼の実家まで、愛車のルーテシアRSにキャノンデールを載せ、早朝5時に自宅を出発。8時頃、友人宅に到着して一服、おっさん3人で南アルプスの山塊を縫って走る県道37号を早川町役場あたりから奈良田温泉まで約25㎞、サイクリングサイクリング、ヤホーヤホーとペダルを漕いだ。

text:今尾直樹 [aheadアーカイブス vol.167 2016年10月号]
Chapter
vol.2 自転車から学んだ旧車の自己責任

vol.2 自転車から学んだ旧車の自己責任

キャノンデールは最近、友だちの友だちからもらったものだ。ロードバイクのようだけれど、シクロクロスというオフロード用で、10年近く眠っていたから一度整備した方がいいと言われた。自宅近くの専門店に持って行くと、メイド・イン・USA時代のキャノンデールだから、お店の人もさぞや感心するに違いない。

と思ったら、お店のおにいさんは困惑顔でこう言った。自転車の寿命は10年程度です。特にこのタイプはフロントのサスペンションのゴムブッシュがポッキリ壊れて大ケガをする可能性がある。懐かしいけど、微妙です、この古さは。このゴムは交換できないの?できません。

会話しながら、クルマも同じだな、と私は思った。16年ほど前、私は1959年のオースティン・ヒーリー・スプライト、通称カニ目を持っていた。あれを新車のディーラーに持ち込んで整備を頼んだとしよう。これはアブナイです。3点式シートベルトもエアバッグもない。買い換えた方がいいですよ。そう言われるに違いない。

実際、このカニ目で東京〜大阪を往復したことがある。道頓堀のカニ道楽までカニ目でカニを食いに行く、というダジャレを実行するためだった。知らぬが仏。実はフロント・サスにクラックが入っていた。無事でヨカッタ。つまり、旧車の世界は自己責任である。10年落ちのキャノンデールもまた自己責任なのだった。

奈良田への緩い登りが続く往路は、シクロクロスの低いギア比が幸いした。なんだ坂こんな坂、ギア比ってのは大事だ。電灯のないトンネルは超怖かった。私のキャノンデールにはライトがなかった。暗闇の中、背後から自動車の走行音が聞こえてきた。一瞬、死を覚悟した。

ハァハァゼーゼー4時間弱走り、ガス欠になった。折り返し地点の「奈良田の里」で親子丼を食べて復活。入らなかったけれど、「女帝の湯」という日帰り温泉があって、奈良田温泉には8世紀に孝謙天皇という女帝が療養のため8年間過ごした伝説があるということを知った。

下りの復路はギア比の低さが災いした。スペシャライズドのロードバイクに乗るふたりに置いてけぼりを食った。ニュートラル状態でも差が開く。彼らのはカーボンフレーム、こっちはアルミでタイヤが若干太い。初心者ゆえ、ビンディングなしのペダルに交換していたことも響いた。悔しい。

走行後、石原裕次郎もケガの療養で滞在した下部温泉郷のお湯に浸かってホッとした。自分がエンジンである自転車の痛快さは、自動車のそれとは別種だけれど、似ているところも多々あると思った。遅まきながら、これはハマるね。

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text:今尾直樹/Naoki Imao
1960年生まれ。雑誌『NAVI』『ENGINE』を経て、現在はフリーランスのエディター、自動車ジャーナリストとして活動。現在の愛車は60万円で購入した2002年式ルーテシアR.S.。
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