おしゃべりなクルマたち Vol.73 国別的運転作法論

Vol.73 国別的運転作法論

アヘッド 武政 諒イラスト

実際、浜辺はゴザを広げるのをためらうほどの混み方だったし、なにより道が渋滞していた。休暇日数が減ったことで、ローコストの飛行機を利用して時間を稼ぐショートステイがここ数年のバカンス傾向だったが、今年はイタリア、ドイツ、ベルギーに加えて東欧、北欧ナンバーのクルマもたくさん見掛けた。

観光客が増えれば物価があがり、治安が悪化し、移動に時間がかかるようになるが、それでも街に活気が戻るから私はウレシい。渋滞だって悪くない、そんな気にすらなるのだが、この時期、戸惑うのはクルマの流れが変わること。ノッキングを起こしたみたいにガクガクするのだ。私もすっかり調子が狂い、「オタオタ、運転すんな」、息子にこうまで言われる始末。

たとえば当地に多いオランダやスウェーデン、それからベルギー人はロータリーの進入にとても慎重で、彼らの後ろにつくとフライング発進して追突しそうになる。自分がロータリーの中にいる時は距離があっても進入して来ないから直前に飛び込んで来るのではないかとこちらの速度にムラが出る。

反対に向こう見ずに突っ込んでくるのはラテンチーム。気持ちよく周回している目の前に突然、現れ、肝を潰す。ちなみに左折に手間取るクルマを前にすると右の歩道にのりあげて追い越すのも彼らの特徴。ちょっと待ってろ、とアタシは言いたい。

車間距離をほとんどとらず、ぴったりくっついてくるのは東欧組で、後ろに彼らが来ると気が焦る。あまりに慌てるものだから娘に言われる。「ママ、ゼンよ、ゼン」。禅は今やフランス語の辞書にも載る言葉。落ち着けを意味するのだ。

これでいけば禅そのものなのはドイツ人と言いたいところだが、彼らはたいへんスクエア。優先権を持つのはアナタだが、そこをちょっと譲っていただけると、ワタシ、通れるんですけど。こういう時に動かぬ土佐犬のように居座り、こちらが怒鳴られることまであって、そうするとつい、謝ってしまう。謝るな! と家人にさらに怒鳴られる。

福祉が充実した国はヒトがスポイルされるのか、経済や政治が安定せぬ国ではヒトはサバイバル力が強くなるのか、制度やシステムが機能する国ではヒトはヒトを信じなくなるのか。

いや、国の在り方はヒトをつくる、逆も真なり、ここまではいいとしても、それをドライビングにまで結びつけるのは飛躍し過ぎか、逆に短絡的すぎるのか、まったくもって判断がつかない。

唯一、実感するのはドライビングの癖や習慣は個人的なものというより地域性が強いこと。欧州は大陸、今や国境を意識せずにスイスイ、走っていけるのに、どうしてこれだけ違うのか。調子っぱずれの手拍子みたいな、情けない運転をした夏だった。

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text : 松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。

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