小沢コージのものくろメッセ その10 なぜクルマ好きに悪い人はいないのか?

その10 なぜクルマ好きに悪い人はいないのか?

アヘッド 小沢コージ

確かにそうかもしれない。小沢も長年クルマ好きを取材していて、嫌な気持ちになったことはほとんどないし、ライターや広報マンにしろ極端にいい人はいないまでも、基本とても正直で紳士的だ。

それからなんといってもエンジニアだろう。海外ブランドには、私の英語力が足りないこともあってか、建前や、キレイな話に終始する人も多いが、日本人エンジニアは違う。自分のブランドに多少不利益なことでも、思ったことは大抵率直に教えてくれるし、他の部門とは明らかに違う。

それは普段、彼らが人ではなく、物を相手にしているからだろう。データはいくら言っても変えられないし、ウソは付けない。比べると広告代理店業や政治家はいくらでも解釈を変えられる。

それは相手をしているのが人だからだ。それが大きいのか小さいのか、弱いのか強いのか。すべては相対評価なので誤魔化しを効かせやすい。

ところがクルマでありメカニズムが相手では、口八丁手八丁は使えない。もちろん、モード燃費などは、法のスキ間を突いて実際より良く表記できる場合もあるが、真の燃費はうるさいユーザーと自分自身が良く知っている。

そもそもウソを付けない土俵で仕事をしているだけに、私生活や、日々の言動にその姿勢が反映されるのだ。

旧知のカメラマンはこうも言った。

「やっぱりクルマは死に直結する物であり、仕事だからじゃないですか」

まさしくそうだろう。僕らは常日頃、クルマに乗ってそれを評価する。それはヘンな話、人を危めうるものだ。実際、メーカーに寄り添い、世に広める立場として、クルマが大きな事故を起こした場合、それはこの身に跳ね返ってくる。

例のエアバッグ事件もまさしくそうだ。もちろんあの事件により「すべてのエアバッグが悪い」とはならないし、当時見抜けなかった自動車メディア関係者が直接批判されることもない。

だが、クルマは基本的に人を幸せにするものと信じて仕事をしている身として、人を危める可能性のある安全装置ほど悲しいものはない。だからこそクルマ関係者はどこかで真摯なのだと思う。

一生懸命やっているスポーツマンが清々しく、人を本気で治したいと思っている医者が気高いように、本気でクルマを愛し、なおかつ酷な事故現場を知っている人は真摯にならざるを得ない。そこは決定的に矛盾しているからだ。

一度、オリンピック水泳選手を真剣に取材したことがあるが、彼らは驚くほど正直で真摯的だった。大金を貰っているサッカー選手やプロ野球選手の方が、私見ではあるがよっぽどわがままで、「なぜにこんなに正直なの?」と思うほどだった。

日頃の言動には、日々闘っているフィールドであり、倫理観が反映される。人はよほどのことがない限り、やっている仕事によって価値判断が変わるのだ。お金が稼げればいいわけじゃない。我ながらつくづく良い仕事を選んだものだと思っている。

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text:小沢コージ/Koji Ozawa
雑誌、ウェブ、ラジオなどで活躍中の “バラエティ自動車ジャーナリスト”。自動車メーカーを経て二玄社に入社、『NAVI』の編集に携わる。現在は『ベストカー』『日経トレンディネット』などに連載を持つ。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、トヨタ iQなど。

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