3気筒というアイデンティティ 〜トライアンフ・ロケットⅢロードスター

アヘッド トライアンフ・ロケットIIIロードスター

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それが出始めた頃、肯定派は「2気筒と4気筒のオイシイところ取り」として受け入れ、一方の懐疑派は「2気筒でも4気筒でもないあいまいさ」に疑問符を投げかけた。その狭間にある3気筒エンジンに対するイメージである。

text:伊丹孝裕 [aheadアーカイブス vol.143 2014年10月号]
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3気筒というアイデンティティ 〜トライアンフ・ロケットⅢロードスター

3気筒というアイデンティティ 〜トライアンフ・ロケットⅢロードスター

最初のきっかけは'90年のこと。それまで数年に渡って沈黙していたトライアンフから突如トライデント、デイトナ、トロフィーといったまったくの新機種が発表され、そこに搭載されていたエンジンもまた白紙の状態から設計された水冷3気筒だったことに端を発する。

トライアンフは1902年からモーターサイクルを手掛けてきたイギリス屈指の名門ながら、時代の紆余曲折を乗り越えられず、'83年に一度破たん。ほどなくジョン・ブロアーというひとりのエンスージアストが救済に乗り出すのだが、その時に掲げたブランド再建の切り札が3気筒というレイアウトに他ならなかった。

実際、'90年に公開されたそのサウンドこそが新生トライアンフとしての復活を高らかに宣言することになったのだ。
やがて、3つのシリンダーが刻む独特のビートや回転域を選ばないトルクフルな特性が広く知られるようになり、再出発から四半世紀を迎える今ではいくつものフォロワーを生み出すほどの影響力をマーケットに及ぼしている。

肯定派の支持がいつしかそれをメジャーな存在へと押し上げ、メーカーもまた見事にそれに応えて確固たるポジションを築いて見せた、昨今では稀有な成功例と言えるだろう。

トライアンフはその過程で3気筒のオールラウンド性を活かし、排気量に大小をつけながらスーパースポーツ用にもデュアルパーパス用にも仕立てる巧みさでバリエーションを拡大。その一方、なんの汎用性も互換性も持たない突然変異種を生み出す自由奔放さも見せてきた。

それが超ド級の大型クルーザー「ロケットⅢ」だ。水冷の並列DOHCという形式自体は他の3気筒と同様ながら、101.6㎜×94.3㎜のビッグボア&ロングストロークがもたらす2294㏄もの排気量は、モーターサイクル用のユニットとしては突出したもの。

事実、デビューして10年が経過した今も量産車世界最大という立場が脅かされる気配はない。このロケットⅢは'04年からしばらく日本にも導入されていたが、厳しさを増す排ガス規制の中で一時デリバリーが中断されていた。

ところがついにその課題をクリアすることに成功し、このほどロケットⅢロードスターとして再上陸を果たすことになったのだ。

溢れ出す221Nmというトルクも、0-100㎞/h加速2.8秒という怒涛のパワーも限られたオーナーだけが知る快楽になるだろう。だがそれでいい。これは3気筒エンジンにおけるひとつの頂点だからだ。

これまで小ヒットこそあったものの、3気筒の量産車などかつてどのメーカーも成功らしい成功に至らず、まして継続し、進化させることなどなかった。

トライアンフはそこにアイデンティティを見出し、モノにしたことにこそ意義がある。ロケットⅢロードスターはそれを象徴する存在なのだ。
●ROKET Ⅲ ROADSTER
エンジン:水冷並列3気筒DOHC
排気量:2,294cc
車両重量:374kg
最高出力:148ps/5,750rpm
最大トルク:221Nm/2,750rpm
車両本体価格:¥2,484,000(税込)

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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。
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