オールドファッションは許されない ~ジャガーXE

アヘッド ジャガーXE

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今、ジャガーがヤバい。そう思ったのは新型XEをこの目で見てからだ。最初は正直「ジャガーがまた小さいのを出して来たのか」だった。過去に手軽なXタイプを出していたし、XEはXFやXJの単純な縮小版にも見える。

text:小沢コージ [aheadアーカイブス vol.152 2015年7月号]
Chapter
オールドファッションは許されない ~ジャガーXE

オールドファッションは許されない ~ジャガーXE

●ジャガーXE
車両本体価格 : ¥7,690,000(S、税込)
全長×全幅×全高(mm): 4,680×1,850×1,415
車両重量:1,710kg
エンジン:3.0リッター V6 340PS スーパーチャージドガソリンエンジン
排気量:2,994
最高出力:250kW(340ps)/6,500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgf・m)/3,500rpm
JC08モード燃費:10.4km/ℓ 駆動方式:後輪駆動


だが、そうじゃない。良く見ると、妙に研ぎ澄まされ、意外にも実用的なのだ。フロント回りはXFと似ているが、よりシャープかつ普遍的に仕上げているし、リアシートはミディアムサルーンとして十分に広いし、ラゲッジも415リッターはある。加えて全体の質感も高い。

全くの予想外だった。ジャガーのように先鋭的なブランドは、普及クラスでは逆に他より尖ったデザインで、差別化を図ってくる。オールラウンドプレーヤーなチャンピオンに対し、トリッキーなテクニックやタッチで挑んでくる新進気鋭のテニスプレーヤーのように。

ところが新型XEは驚くほど王道かつ直球勝負だった。デザイン的美しさは最新ジャガーモード全開だが、それでいて実用的でクオリティが高い。

なによりアルミ使用率75%という完全新作FRプラットフォームに驚いた。あのメルセデスのCクラスでさえほぼ50%。今までにないハイテクリーダーぶりだ。しかもメインエンジンはクリーンディーゼルで今後新プラットフォームでXF他を構築していくという。

XEは途中経過ではなく出発点であり、2000年代のモダン化に続く2度目のREBORNなのである。

そこにはちゃんとした裏付けがある。親会社のインド・タタ財閥の存在だ。タタはまさに口は出さずにお金は出すの理想的パトロンで、製品開発や設備投資に38億ポンドほどの資金を出したという。

それは今後激化するプレミアムセグメントを生き抜く上での当然の判断。実は同じ元フォード傘下のプレミアムブランド、ボルボも似たような状況で新型XC90をデビューさせ、REBORNを計っている。

両者が物語るのは、ヘタな勝負が許されない今のプレミアムセグメントの厳しさだ。XEの想定コンペティターはBMW3シリーズ、メルセデス・ベンツCクラス、アウディA4の3強。今までのジャガーならここに真っ向勝負は挑まなかった。
なぜならデザインの美しさや工芸品としての価値以外に安全性、実用性、生産効率などあらゆる面での実力が求められるからだ。某イタリアンブランドの様に、フィアットをベースにガワだけ替えたような技は通用しない。中身から一新しなければライバルに勝てないのである。

それは奇しくも、奔放なテクニックで人気をさらった一時の錦織 圭にも似ている。一発のドロップショットやジャンピングフォアハンドで観客を沸かすことはできる。だが、真のチャンピオンとなるためには地味だが速いフットワークや磐石のサーブ技術を必要とするのだ。

オールドファッションや奇策はもはや通用しない。と同時にこの状況は3シリーズやCクラスだけでも贅沢なのに、その上最新ブリティッシュモダンをも選べる状況を作り出した。少しでも人とは違ったいいものを求める人には、都合のいい時代がやってきたのかもしれない。
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text:小沢コージ/Koji Ozawa
雑誌、ウェブ、ラジオなどで活躍中の “バラエティ自動車ジャーナリスト”。自動車メーカーを経て二玄社に入社、『NAVI』の編集に携わる。現在は『ベストカー』『日経トレンディネット』などに連載を持つ。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、トヨタ iQなど。
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