おしゃべりなクルマたち Vol.86 音とカタチの整合性

Vol.86 音とカタチの整合性

アヘッド おしゃべりなクルマたち

最初は親の贔屓目かと思ったが、高校の時、フランスでよく知られた映画俳優が母校訪問とかで彼のクラスにやって来て、後の懇談会で愚息に言ったそうだ。

「キミ、ラジオの世界に入りなさい」これには一家総出で爆笑したが、本人は結構、落ち込んだ様子で、それで私はこう慰めた。「かっこいい男が甲高い声で話すと幻滅するけど、顔は不細工でもいい声だと魅力的に見えるものよ」  慰めになっていなかったかも知れない。

それでもこの考えに嘘はない。クルマも同じで、私にとって音はカタチと同じくらい重要な意味を持つ。どんなにカタチが気に入ったクルマでも音が不釣り合いだと興ざめする。シートの柄や座り心地やパーツの手触りも重要だが、この手のものは意外に慣れる。音はだめ。

まずはエンジン音と言いたいところだが、これは大きさのヒエラルキーに従っていればそれでオッケー。私が気にするのはドアが閉まる時の音とクラクションの音色。ウインカーは俄然、カッチンカッチン派だ。

欧州人と握手すると、時々、ふにゃっと頼りなく相手の手を握るヒトがいるが、この握手が私は大の苦手。モッツァレラ・チーズを握ったよう。

相手の手をぎゅっと握る(その後、軽く上下に振る)それが握手というもんだと思うが、ドアが閉まる時の音も同じでぎゅっと閉まる、それが伝わる音がいい。ぺこっとか、パコンとか、ちゃんと閉まったかのか、半ドアなのかわからぬ音はダメ。

こう言うとしかし、愚息にいつもこれも値段のうち、つまり安価なクルマが安普請なのは当然だと返されるが、それでもたとえばパンダのドアは重厚な音こそたてないが、ペコペコした耳障りな音はしないのだ。

ただし、クラクションの音色、これは情けない。小さいながらも志のあるパンダだが、いったん声を発すると興ざめの口で、それでなるべく鳴らさないようにしている。

一時期、当地でトヨタ・ヤリスにのっていたことがあるが、ヤリスのホーンもそれは情けない音色だった。腰が引けた、弱気な音色。鳴らしちゃってごめんなさい。

実際、鳴らしても効果を上げることは少なかったが、かわってパンダのクラクションは腰が引けているわけではない。問題はトーンにある。こんな音。プーッ。子供が吹くおもちゃのラッパそのもの、鳴らすたびに後悔する。警告するというより、ふざけてる、いや、自らを笑いものにしている、そんな音だ。

いつだったか、強引な割り込みをされ、思わず盛大にクラクションを鳴らしたが、横に並んだクルマのドライバーが窓越しにこう言った。「その音じゃだめだな」

ホーンを交換しようと真剣に考えた時期もあったが、結局、諦めた。このクルマに合う音が浮かばなかったからだ。「パンダにはラッパのプーッが合ってるぜ」 愚息に昔のリベンジよろしくこう言われている。

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text : 松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。

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