小沢コージのものくろメッセ その19 時代を映し出したVW事件

アヘッド ものくろメッセ

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クルマ好きの方ならご存じだろうが、今ドイツのフォルクスワーゲン(以下VW)が揺れに揺れている。ドイツの半国営企業ともいいたくなるVWの排ガス疑惑の件だ。戦時中に国策企業として始まったドイツ最大の自動車メーカーで、今も株式の約2割を地元ニーダーザクセン州が持っているVW社は、完全なプライベートカンパニーであるトヨタやホンダやスズキとは、そもそも出自が違う。

text:小沢コージ [aheadアーカイブス vol.155 2015年10月号]
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その19 時代を映し出したVW事件

その19 時代を映し出したVW事件

そのドイツの筆頭メーカーが起こしたスキャンダルとは世界最大レベルで環境にうるさい北米マーケットにおいて、排ガス中の窒素酸化物、つまりNOxを公的検査中に意図的に細工して抑えたという内容だ。

トヨタの急加速リコールやタカタのエアバッグ問題とは別次元の意図的な誤魔化しなわけで、その点に一番驚かされた。予期せぬ失敗ではなく〝作為的な策略〟だからだ。

おそらくVWは今後、公的にも世間的にも大きな制裁を受けるだろう。それは仕方ないが、そこで一番気になるのは、日本にも多い長年のVWファンについてだ。

VWは'30年代の初代ビートルから熱狂的なファンが多く、同世代のタイプⅡや個性的なデザインのカルマンギア、'74年生まれの世界的大衆車、ゴルフまで幅広いファンを持つ。

乗れば分かるがVWはまさにマジメで質実剛健としかいいようのないクルマである。デザインは、シンプルで無駄な装飾は一切無く、走ってもこれ見よがしなスムーズさやゴージャスさ、妙な柔らかさもない。その点において美麗なイタリア車やマシュマロタッチのフランス車とは一線を画す。

とはいえ乗る人に厳しいかというとそんなことも一切ない。ゴルフで1時間も走ればわかるが、本当に疲れないし、同乗者もほとんど酔わない。一見ぶっきらぼうで愛想もないが、乗る人のことを本当に考えている。

そういう〝不器用な愛〟にファンは惹かれていたと自分は考えている。しかも、同様に他人へのアピールがヘタな日本人は余計にシンパシーを感じたのだと。

しかし多少ゴーインに思い返してみると、VWは最近少しずつ変わってきていた。ゴルフで言えば2世代前あたりから「世界最良のゴルフ」をうたい、乗り心地や静けさは明らかに向上。インテリアのクオリティはプレミアムブランドなみとなり、デザインもシンプルさは守りつつも随分端正で美しくなった。

それは見事な変貌で、最新フラッグシップのパサートを見ればわかる。相当に美しくトゲがない。以前の取っつきにくさやゴワゴワ感がすっかり削ぎ落とされているのだ。ガンコで絶対に笑わなかった老舗店の親父が、愛想を振りまくような感じだろうか。もちろんそれを責める気はない。いつまでもガンコはウケないし評価されないからだ。

もはや自動車づくりは半分サービス産業になった。合理的判断や柔軟的思考を養わなければいけない時代なのだ。

だが、ふとこうも思う。今回の「魔が差した」ような出来事は、もしやそういう〝合理〟や〝柔軟〟が影響したのではないかと。「いつまでもマジメなだけではいられない」。そういう時代背景が引き起こした事件だと思うのである。

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text:小沢コージ/Koji Ozawa
雑誌、ウェブ、ラジオなどで活躍中の “バラエティ自動車ジャーナリスト”。自動車メーカーを経て二玄社に入社、『NAVI』の編集に携わる。現在は『ベストカー』『日経トレンディネット』などに連載を持つ。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、トヨタ iQなど。
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