限定車のあり方について

アヘッド WRX STI S207

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10月に発表されたフェラーリの限定車〝F12tdf〟は、マラネロ生まれのスペチアーレにしては799台と台数は多めなのに、アナウンスされたときには完売していた。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.157 2015年12月号]
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限定車のあり方について

限定車のあり方について

●Ferrari F12tdf 
1950年〜60年にかけて開催された伝説の耐久自動車ロード・レース「ツール・ド・フランス」のオマージュモデル。”tdf”は”le tour de france”の頭文字をとったもの。


フェラーリのこうした限定車は、いつもそうだ。ラ・フェラーリの499台、599GTOの599台、エンツォ・フェラーリの399台……と、それらは「すでに複数台のフェラーリを所有していること」というオーダーを受け付けるための条件があるにも関わらず、大抵の場合は発表前に数が埋まってしまうか、発表直後に売り切れてしまう。

日本の限定車でも、ちゃんと中身のあるものは簡単に売り切れてしまうようだ。4月10日から先行予約を受け付けていた三菱ランサー・エボリューションX〝ファイナルエディション〟が、先行予約スタートから数日して1000台を売り切った、という出来事が話題になった。
●WRX STI S207
車両本体価格:¥5,994,000(税込) 総排気量:1,994cc
最高出力:241kW(328ps)/7,200rpm
最大トルク:431Nm(44kgf)/3,200〜4,800rpm
*販売はすでに終了しています。


そして10月29日、スバルがWRX STIをベースにした〝S207〟を400台限定で発売し、即日完売した、というニュースに腰を抜かした。何もオプションをつけない〝素〟の状態ですら599万4000円という、中古のポルシェ911が買える価格であるにも関わらず、だ。

エンジンのムービングパーツの重量バランス取りや専用開発のECUで制御するなどで328psまでパワーアップしていたり、足腰の部分でもダンパーやバネはもとより、サスペンションの取り付け剛性やステアリングギア比のクイック化、それにトルクベクタリング機構の大幅なリセッティングなど、ありとあらゆる部分に魂のこもった上質なチューンアップの手が加えられてるのは確かだ。

それに、これまでのSTIのこうした限定車の乗り味を思い出せば、このS207も素晴らしい乗り味を提供してくれるだろうことも簡単に予想できてしまう。だけど、それにしても、即日完売とは恐れ入る。

先代といえるインプレッサ時代の〝WRX STI S206〟も2週間足らずで300台が完売、もっと前のS203は555台を約1ヵ月で完売。そんな記憶がある。STIの限定車はクルマも速いが、完売までのアシも速い。

しかも、本当はココが一番大切なことだと思うのだけど、STIが手を入れたチューンド限定車は、ワインディングロードやサーキットなどで走っている姿を実によく見掛けるのだ。楽しそうに、当たり前であるかのように、走ることを楽しんでいる。

クルマに込めたエンジニア達の想いをドライバーが受け取り、その世界を堪能しているという、ひとつの理想的なカタチだろう。外野がクチ出しすることでもないけれど、投機目的で眠らされることの多いマラネロ産の限定車よりも、クルマにとっては幸せなことなんじゃないか? なんて思えてくる。クルマとヒトのいい関係が、そこにある。

スバルはクルマの開発に従事してる人達も熱いけど、乗り手も熱いのだ。相思相愛なのである。何だかいいな、と思う。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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