おしゃべりなクルマたち Vol.90 イタリア人の心配の種

Vol.90 イタリア人の心配の種

アヘッド おしゃべりなクルマたち

私は株とか投資とか先物取引とか、そういうことが何もわからぬ経済オンチ。ナニナニを懸念して株価が下がったと聞くと、これは風と桶屋のことではないかと考え、株の値段の上がり下がりにいちいち騒ぐなと思い、果ては懸念という言葉と株を結びつけるなと怒り、懸念はもっと深刻なことに使えと腹をたてる人間だ。

だから、今回の上場がどういう意味を持つのか、まったくわからない。それでもこのニュースがテレビから流れるたびに画面に近づいたのはこの一件の立役者、マルキオンネの様子が見たかったから。彼が好きなわけではない。ここのところ、お間違えなく。

マルキオンネはフィアット・クライスラー・オートモビルスの最高責任者。2003年、当時、瀕死状態だったフィアット・グループに取締役として入り、立て直しに着手。アメリカに乗り込んで経営破綻したクライスラーを手に入れ、一方でイタリア国内の工場を整理し、ばったばったと社員の首を斬り、フェラーリの顔であったモンテゼーモロの首まで斬ってイタリア中を唖然とさせた人物。

イタリアには権力が好き、お金が好き、オンナが好きと言って憚らぬビジネスマンがたくさんいるが、マルキオンネの場合は商売が好き、好きで好きでたまらないよう。だったら日本の社長と同じですねって、とんでもない。

日本の社長は社員の幸せ、社会貢献みたいなことを、一応であっても、一応言うけれど、彼は絶対、言わない。マルキオンネがそれこそ一応、こういうことを言ったら白けるだけ。それでも彼が手を動かせば業績があがり、お金が回り、最終的に国が潤う。だからみんな見守っているのである。

年収50億円ともいわれる彼が自分のお金に興味がないことも有名な話で、髪はボワボワ、歯が欠けていて、ネクタイをせず、いつも同じようなセーターを着ている。

オバマ大統領に会う時も、証券取引所に現れた時もこの姿だった。見た目は猫背で風采の上がらぬおっさんだが、それをスタイルとして貫いているというより、同じ格好をしていたらそれが彼のスタイルとして定着した。スタイルに押し上げたのはもちろん商売人の実績である。

 現在のところ、マルキオンネは数ある自動車メーカーの、かき分けるほどたくさんいるサラリーマンの中で唯一、顔の見える作り手だと思う。だから目が離せない。ただし問題はーー。

問題は彼にとってクルマがビジネスの駒に過ぎないのではないかと感じられること。F1参戦どころか、アルファ ロメオを売り飛ばすことだって彼ならしかねない。イタリア人の心配の種はここにある。私も大いに心配している。これぞ懸念だ。

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text : 松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。

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