小沢コージのものくろメッセ その23 テスラ・モデルSは本当に走るiPhoneなのか?

その23 テスラ・モデルSは本当に走るiPhoneなのか?

アヘッド 小沢コージ

残念ながらモデルXには諸事情あって乗れなかったが、もう一つの話題である半自動運転のオートパイロットを試し、工場見学やスタッフインタビューを敢行した。その結果分かったことがある。それは日本人が考えるテスラ像と本当の自動車ベンチャー、テスラの実像とのイメージのズレだ。

例えば今、世界的に売れているモデルS。あれは「走るiPhone」だとか「画期的EV」などと言われ、今までにない新しい乗り物のように言われているが、テスラはそんなことは全く考えていない。彼らは単純に「現在作れる最良の高級セダン」というコンセプトに基づいてあれを作っている。

例えば排ガスを出さない特性は、単純に「他のセダンより優れている性能」と捉えており、そのほか速さ、広さにしろ確かに従来のセダン以上。モーターの巨大トルクを生かし、加速性能はスーパーカーと変わりなく、エンジンを持たないがゆえに室内スペースも驚くほど広い。なにしろモデルSは3列シート仕様も選べるのだから。

そう、モデルSは従来に全くない画期的乗り物というよりも、単純に全面的に優れた次世代の高級セダンなのだ。その結果、見事にアメリカではメルセデスやBMWの市場を奪っており狙いは的中している。

そして現実にテスラの存在に焦っているのは、既存の自動車メーカー、つまりアウディであり、ポルシェだ。例えば去年のフランクフルトショーでポルシェが出したEVコンセプト、ポルシェ・ミッションE。あれはポルシェがモデルSの性能や人気の高さに焦ったゆえに作られたと言われている。それほどモデルSの売れ行きは驚異的であり、インパクトがあるのだ。

思うに、日本人はベンチャー企業に対して過剰な夢を描きがちだ。アニメやSFの世界の如く、今までにない創造性100%の革命であるかのように捉えてしまう。ところが現実のベンチャーはより現実的で残酷だ。

アップルのiPhoneは確かに革命的だったが、同時に既存の携帯電話を駆逐し、日本の家電メーカーを確実に不況の淵に追いやった。テスラ・モデルSはまだそのレベルまで行ってはいないが、既存の高級車市場を食い荒らし、デザインは露骨に既存の高級セダンをターゲットにしている。

そのほか米ベンチャーのウーバー・テクノロジーズが生み出した画期的配車アプリのウーバーもまた次々と既存のタクシー会社を死に追いやっている。そう、ベンチャーの本質とは、新技術の本質とは実は殺し合いなのである。

新しい力が生まれると同時に、旧態依然とした力は死に追いやられる。それは当たり前であり、力と力の勝負なのだ。そう考えると日本から真のベンチャーが生まれにくい理由が分かる。日本は力と力の勝負を好まない。WinWinを望むからだ。そういう姿勢は世界では稀なのである。

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text:小沢コージ/Koji Ozawa
雑誌、ウェブ、ラジオなどで活躍中の “バラエティ自動車ジャーナリスト”。自動車メーカーを経て二玄社に入社、『NAVI』の編集に携わる。現在は『ベストカー』『日経トレンディネット』などに連載を持つ。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、トヨタ iQなど。

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