チャレンジする人 〜挑戦者たちを追う

チャレンジする人 〜挑戦者たちを追う

アヘッド バイク 側面

今回で3度目のパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムに挑む伊丹孝裕も、6度目のラリー・モンゴリアに臨む若林葉子も、やはりそうにちがいない。

世界的レースという大舞台で目標を達成することで得られる名誉や成長、発展や幸福なんてものはタテマエ、あるいはオマケといえる。そうした皮をひん剥いて出てくる甘い果肉は、「チョー気持ちいい」と叫びたい欲望だろう。

その瞬間に世界中の誰よりも幸福だと思い、この世に生を受けた歓びに包まれ、脳みそからドバドバと溢れ出るドーパミンに溺れたいからこそ、ロッキー山脈の頂を目指し、ユーラシア大陸の広大な荒野へ行くのだ。

それは最高のビールを味わうために高温のサウナに耐えて汗を流すことと根本的に変わりない。舞台装置と方法がちょっとちがうだけだ。

しかしこの「ちょっとのちがい」が、大きな変化をもたらす。一年に渡って資金を作り、肉体を鍛え、知識を増やし、家族や周囲の人間を説得し、レース期間中のスケジュールを調整し、マシンを製作してそれを海外へ運ぶ。

そのようにして、たった数日のレースにすべてを賭けるとなれば、多くの人が興味を持ち、彼らが成功を収めれば共に感動してときに涙を流し、もし失敗したとしても悔しさを共感してを噛む。

そして、それは彼らを見ている私たちもまったく同じなのだ。

励ましの言葉をかけたり資金調達に協力したり、彼らの参戦レポートが掲載された記事を購入するなどして彼らを支援するが、何のことはない、私たちは彼らの快感を見聞することで快感を得たいのだ。つまりカタルシスである。

私たちのそばにはサウナもビールもないから、それらを持っている彼らに苦労と快感を味わってもらうことで、そのお裾分けを欲しているのだ。

「チョー気持ちいい」の裏側を少しでも知ることでその想像力を逞しくし、たとえそれが代替であるにしても気持ちよくなりたい。エクスタシーを感じ、オルガスムスに近づきたいのだ。快感の絶頂とまではいかずとも、麓を見晴らす山腹でヤッホーと叫びたいのである。

2年前のパイクスピーク。前年は転倒リタイヤの屈辱にまみれた伊丹が念願の完走を果たしたとき、ゴールで待ち構えていた私は彼がチェッカーフラッグを受ける瞬間を写真に収めるとその場を離れ、伊丹を探し当てた瞬間にドーパミンが溢れてくるのがわかった。

おそらくは伊丹の半分ほどなのだろうが、それでも十分な量がドプリと分泌され、私は思わず「伊丹さん!」と声をかけた。急ぎ足で彼に近づくほどに頬の筋肉が緩み、額がじわりと熱く、シビレてくるのだ。

そしておもむろにガバっと彼をハグをして背中をバンバンと叩き、まるで我がことのように歓びつつ、彼の成功を讃えた。普段の私はそういうことをするキャラではないのだが(おそらく伊丹も同じだろう)、ドーパミンにまみれてたのだから仕方がない。

なんといっても気持ちいいのだから、とにかく快感に身も心も任せていればいいのだ。

そのようにして私はもっともダイレクトなかたちでお裾分けをもらうためにライター&カメラマンという職業を選んでいるところもある。

もちろん、そこで体験した快感をなるべく新鮮なかたちで塩梅を損なうことなく、雑誌やウェブを通じて多くの人たちに届けたいと思っている。

そういうわけで、私は今年も伊丹を追いかけてパイクスピークへ行く。いわば快感の卸問屋として、生産者と顧客の満足度を高めるべく、薄い酸素に喘ぎつつもシャッターチャンスを逃さないよう運と勘を研ぎ澄ます。

そうすることが私にとってのチャレンジでもある。彼らがチャレンジにチャンスを見出すとき、それは私にとってもチャレンジでありチャンスなのだ。

若林を追っかけてモンゴルにも行きたいのだが、日程その他諸事情のため叶わない。なので私がダイレクトにお裾分けをもらえるそのときまで、若林にはぜひとも来年以降もモンゴルその他にチャレンジしてもらいたいと思っている。

アヘッド バイク コーナリング

今年のパイクスピークを戦うマシンとして伊丹が選んだのは、ハスクバーナ「701スーパーモト」。伊丹にとっては初のモタードマシンだが、ヘアピンカーブが連続するパイクスピークでは有利なカテゴリーのマシンだ。

伊丹が参戦するクラスは「ミドルウェイト」で、7台がエントリーしている(5月29日現在)。MVアグスタ・ブルターレ675、ヤマハ・MT-07、トライアンフ・ストリートトリプル、アプリリア・SVXがライバルとなる。

レースに向けたチューニングとして、排気系は46WORKS・中嶋志朗に依頼したチタン製サイレンサーを装着。軽量化とともに全域にわたる出力アップを実現。吸気系はJAM・成毛浄行によるRAPiDBIKEを使った燃調セッティングを実施。

パワー、トルクともに向上させつつ、数パターンの燃調セットを仕込むことで現地での天候や気温の変化に対応させる。パイクスピークは6月21日から予選がはじまり、26日8時(現地時間)に決勝を迎える。(写真提供:ライダースクラブ)

▶︎昨年(2015年)のモンゴルラリーでは、ジムニーシエラ1300でナビを置かず、一人二役で完走した若林。今年はYAMAHAのROV『YZX1000R』にナビとして乗る。

ドライバーは2015年のダカールラリーでもパートナーを組んだ、鉄人・菅原義正氏。写真は菅原氏が会長を務める日本レーシングマネージメント(株)の御殿場ガレージ。

基本的にはノーマルのまま出場するが、レギュレーションにあわせてガソリンタンクを増設したり、夜間走行を想定してLEDライトを付けたり、ブッシュガードやナビゲーション機器を取り付けたりといった細かい改造はすべて菅原氏自らが行う。

若林も時間の許す限り、御殿場に通って、菅原氏の指導の元、作業を共にする。"クルマのことをよく知る"ことも、ラリーレイドという競技で完走するうえで大切なことである。

8月7日〜14日までの8日間、約6,500kmの距離を走る。埃や雨や気温の変化にさらされるROVは若林にとって初めての経験となる。(写真・山下 剛)

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text:山下 剛/Takeshi Yamashita
1970年生まれ。東京都出身。新聞社写真部アルバイト、編集プロダクションを経てネコ・パブリッシングに入社。BMW BIKES、クラブマン編集部などで経験を積む。2011年マン島TT取材のために会社を辞め、現在はフリーランスライター&カメラマン。

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