ひこうき雲を追いかけて vol.47 1ユーロのこだわり

vol.47 1ユーロのこだわり

アヘッド コーヒー

今、ローマには編集部の後輩、ムラカミが家族と共に暮らしている。彼女の赤いシトロエンC1で一緒にローマの市街地を走ってみて、ローマ人の〝超〟が3つくらい付くアグレッシブな運転に度肝を抜かれた。

街の中に当たり前のように古代の遺跡がある、そのダイナミックさにも心底驚いた。フィレンツェでは、映画『トスカーナの休日』で憧れた、糸杉のある風景にどっぶりと浸った。

また、それぞれの地に立つドゥオモを見上げては、世の中にこんなに美しい建築物があるのかと、身動きができないくらい感動した。ミラノやフィレンツェのドゥオモはこれまで写真や映像で見たことはあったが、やはり自分の目で見なければその素晴らしさは伝わらない、そう思った。

印象深いことは他にもいろいろあったが、何より私の心に残ったのは、一杯のコーヒー(エスプレッソ)の美味しさだった。レストランなどで食事の最後に出るエスプレッソももちろんだが、それよりもどこの街にも必ずある小さなバールの、一杯1ユーロのエスプレッソの味は忘れがたい。

イタリア滞在中に送ったメールには、誰彼となく「コーヒーがおいしい!」と一つ覚えのように書き綴ったほどだ。なんてったって一杯、1ユーロなのだ。

朝、ホテルでの朝食をやりすごし、これまたどこの街にもある広場のバールに入って、エスプレッソを頼む。ひとりエスプレッソを味わいながら、入れ替わり立ち代りお客さんで混み合うカウンターを眺めるのが、この旅の一番の楽しみだった。

ミラノで落ち合った松本 葉さんにもそんな話をしたら、「私もそれがイタリアで一番好きなところよ」と言ってくれた。

「田舎の方にいくとね、一杯1ユーロしないのよ。この一杯のエスプレッソは、お金持ちもそうでない人も等しく味わえる幸せで、それが素晴らしいと思うのよ」

本当にそのとおりだと、私は葉さんの話に深く頷いた。

イタリアと言えば、オペラが盛んで、パスタが美味しくて、人が陽気でという程度のイメージしかなかったが(お粗末にもほどがあるが)、考えてみれば自動車生産国であり、世界に誇る名車を生み出してきた国なのである。

私は一杯1ユーロのエスプレッソを飲みながら、毎朝のこの一杯にこれだけのクオリティを追求できる人たちだからこそ、素晴らしいクルマを作ることができるのではないか。エスプレッソへのこだわりとクルマに賭ける情熱は決して無縁のことではないはず、とそう思った。

イタリアで飲んだエスプレッソの味を、この先も忘れることはないだろう。

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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。

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