私の永遠の1台 VOL.6 マセラッティ クアトロポルテ

VOL.6 マセラッティ クアトロポルテ

アヘッド マセラッティ クアトロポルテ

▶︎1994年にデビュウした4代目クアトロポルテ。ガンデイーニの手になるデザイン。コンパクトかつアグレッシブなスタイリングが高い評価を博した。時計はラサール社製。一時期、デジタルに変わったが、不評のため、3200GTからアナログ時計が復帰、現在にいたるまですべてのモデルに装着されている。


ピアノは15年ならったが、まともに弾ける曲はひとつもなく、書道は10年続けたが、行書のひとつもいまだ書けない。私は冷蔵庫の扉を足で閉め、日本茶をマグカップで飲む。5年、習った茶道は微塵も身についていない。

いつだったか、お稽古事を奨励した母になぜ、あれほど通わせたのだと尋ねたら、彼女は言ったものだった。「素敵な女性になって欲しかった」。

私も素敵な女性になりたかった。私が想う素敵な女性にはしかし、ピアノを弾けることはそれほど重みを持っていないが、古典音楽を愛するという意味で捉えるなら母の想いと合致する。私が愛する音楽は尾崎豊だ。ちっとも悪くないが、尾崎とクラシックの両方を愛することだって出来たはずだ。

当地で私はマダムと呼ばれるが、それが○○さんを意味するものでしかないとわかっていても、素敵な女性をイメージするから身が縮む。優雅で上品で教養があり、ヒトの噂話に興味がなく、他人にも興味がなく、年を重ねることにガタガタ文句を言わず、女子会にキャーキャー騒がない女性、それが私のイメージするマダム。何よりマダムには色気がある。私にとって素敵な女性は色気のあるオンナなのである。

女性の色気を正当なもの、不可欠な要素として評価する場所と時代に育たなかったことで色気が備わらなかったのか、資質として持ち合わせていないのか、わからない。わかることはオンナの色気を絶賛する地に今、私は生きるということ。色気は時に優れた人格や教養や心遣いよりヒトを魅了する。

色気があるオンナに似合うのは男の色気をたっぷり積んだマセラティだ。このクルマにはアナログの時計がダッシュボードに装着されているが、ガンデイーニがデザインしたクアトロポルテの室内の、金色に縁取られた縦長の時計を初めて見たとき、その色っぽさに圧倒された。

こういうモノをクルマに着けるセンスは、習い事に通って素敵になろうと考える人間には永遠に身につかないものであろう。アーモンド型の時計が色気を振りまいていたが、そこから聞こえるのは男が女を誘う声なのだった。

恋愛でも不倫でも情事にモラルの枠組みを課せず、日常的なもっとも人間らしい営みとして1杯の美味しいエスプレッソと同列に並べる国、そこで生まれたマセラティは私の永遠の一台だ。

その〝永遠〟はしかし、ずっと持ち得る永遠ではなく、生涯、持ち得ぬ永遠である。

アヘッド マセラッティ クアトロポルテ

※写真は現行型


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text:松本 葉/Yo Matsumoto
自動車雑誌『NAVI』の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に『愛しのティーナ』(新潮社)、『踊るイタリア語 喋るイタリア人』(NHK出版)、『どこにいたってフツウの生活』(二玄社)ほか、『フェラーリエンサイクロペディア』(二玄社)など翻訳を行う。

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