21世紀少年はドライブにいく夢を見るか? vol.6 オムロン

アヘッド オムロン

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オムロンと聞くと、体重計や血圧計、体温計などのヘルスケア用品を思い浮かべる人がほとんどだろう。そのオムロンが、近い将来の自動運転技術においてキーとなる技術に取り組んでいると聞くと、「そんなつながりがどこにあるの?」と不思議がるに違いない。

text:世良耕太 [aheadアーカイブス vol.164 2016年7月号]
Chapter
vol.6 オムロン

vol.6 オムロン

それが、あるのである。オムロンはヘルスケアなどの健康医療機器以外にも事業を行っている。数ある事業のうちのひとつが車載電装部品で、電動パワーステアリングの制御装置や挟み込み反転機能付きパワーウィンドウスイッチなどの開発・製造を行っている。

車間距離をセンシングするレーザーレーダーも製品ラインアップのひとつだし、赤外線レーザーとカメラを組み合わせた自動ブレーキシステムの中核となるセンサーも開発中だ。そう聞くと、「なるほど、その延長で自動運転技術ね」と連想したくもなる。

ところが、今回の話は別だ。技術の核となるのは、オムロン独自の画像センシング技術である。デジタルカメラなどに搭載されている、人の顔を自動で見つける顔認識技術を応用したものだ。この技術が、どのような形で自動運転技術と関わってくるのか──。

完全自動運転技術は、ある日突然実用化されるのではなく、段階的に実用化され、身近になっていく。その一例が、高速道路での自動運転だ。判断すべき対象の多い一般道は手動運転を行い、信号もなく、歩行者もおらず、対向車もいないため比較的管理しやすい高速道路では自動運転に切り換える。そして、高速道路から一般道に戻る際には手動運転に戻す。

これが、2018年度以降にも導入が予定されている、高速道路での部分的な自動運転の概要。いったん機能をオンにすればひと安心と考えてしまいがちだが、コトはそう簡単ではない。

例えば、高速道路の出口が近づいたとき、ドライバーが居眠りしていたとしたらどうだろう。システムが勝手に手動に切り換えたところで、ドライバーの方は運転できる態勢になっていない。そんな状況で自動→手動の切り替えを行っては危険だ。

居眠りは極端な例にしても、自動運転であるのをいいことに、スマホの画面に注視している場合だってあるかもしれない。こうした状況でも、ドライバーに準備期間を与えずに自動→手動の切り替えを行ってしまうのは危険だ。

そこで、オムロンの出番である。過去20年以上にわたってデジカメやスマホなどを通じて開発してきた高精度な顔画像センシング技術に、最先端の人工知能技術である時系列ディープラーニングを組み合わせることで、ドライバーの運転集中度を判断するのだ。
▶︎本項記載技術の核となるセンシングユニット本体は、写真のステアリングコラムの上に収まるサイズで開発がすすめられている。秒間30コマを捉えドライバーの様々な状況を判断し処理をするという。


時系列ディープラーニングとは聞き慣れない用語だが、静止した状態ではなく、連続した動きのなかから事象を認識する技術を指す。人間の動作のように複雑な動きの認識はこれまで苦手としてきたが、顔情報と映像情報を統合的に処理することで、ドライバーの多様な状態を高精度に認識することが可能になったという。

ドライバーが手動運転に復帰可能な状態かどうかは、カメラで捉えた情報をもとに行う。直射日光があたっても、光のない夜でも、サングラスをしていても顔の動作や目の開閉が認識できるよう、近赤外線カメラと照明を用いる。外部と通信を行う必要はなく、車載機器で情報を処理し、リアルタイムに判断することが可能だ。

オムロンの「ドライバー運転集中度モニタリング技術」を用いると、居眠りは瞬きの間隔で、脇見は顔の向きで正確に把握することができる。ドライバーが運転に集中している場合は高速道路の出口で予定どおり、自動から手動に運転を切り換えるし、スマホを操作していてすぐに運転に復帰できないときは警告を与えつつ、手動運転に復帰するまでの時間を長くする制御を行う。また、居眠りしていて運転復帰が不可能な場合は、安全に路肩に停車する判断を行う。

オムロンが開発したこの技術が有用なのは、自動運転から手動運転に復帰するケースだけではなく、ドライバーの健康状態が急変した際などにも、それらの事象を精度高く認識できることだ。ドライバーが正常に運転できなくなったのを判断し、安全に停車させる制御を行えば、昨今頻発する悲惨な交通事故を減らすことができる。

その意味でも価値ある技術だし、要素技術を地道に開発するオムロンのようなメーカーがあるからこそ、自動運転技術が実用化に向けて進んでいくのである。

▶︎オムロンの卓球ロボット「FORPHEUS(フォルフェウス)」は、“人と機械の新たな関係性”を象徴する体験型デモンストレーションとして開発された。人と機械が最適に調和した豊かな社会の実現に向けて新技術に挑戦し続けるのがオムロンの企業姿勢だ。自動運転においても、“人と機械をつなぐ”オムロンの技術が、活かされている。

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text:世良耕太/Kota Sera
F1ジャーナリスト/ライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全』『モータースポーツのテクノロジー2016-2017』(ともに三栄書房)、『図解自動車エンジンの技術』(ナツメ社)など。http://serakota.blog.so-net.ne.jp/
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