オンナにとってクルマとは? 前を向く呪文 vol.75

前を向く呪文 vol.75

「国際福祉機器展」のトークショーでお相手をさせていただいた、車いすマラソンアスリートの土田和歌子さんは、17歳の時に交通事故に遭って車いす生活となった。

でもその後始めたアイススレッジスピードレースで世界新記録を樹立し、陸上に転向してアテネパラリンピックでの金メダル獲得をはじめ、世界各国で活躍を続けている日本を代表するアスリートだ。

トークショー前の打ち合わせで初めてお会いし、パッと輝くような笑顔にまず惹きつけられた。そしてハキハキと気持ちのよい語り口調と、気さくで優しさあふれる人柄に、私はいっぺんで土田さんの大ファンになった。

トークショー中、車いすで42.195kmを走りきるには体力だけでなく、メンタル面の強さも必要なのではと尋ねると、「とくにメンタルトレーニングはしてないんですが、もう毎日の生活がトレーニングですね」と笑い飛ばす土田さん。

その言葉の向こう側に、いったいどれほどの苦労を重ねてきたのだろうと思い、私はステージ上にもかかわらず涙がこぼれそうになった。

でも土田さんは苦労話の代わりに、車いすマラソンだけでなくいろんな競技があることや、それにチャレンジするたくさんの障害をもつ人がいることを、まずは知って欲しいと話す。きっとそれが、苦労のない世界への一歩となっていくことを痛感しているのだろうと思う。

そんな土田さんの愛車は、手だけで運転できる補助装置がついたオデッセイだ。「どんなドライブが好きですか?」と尋ねると、「私にとってクルマは、生きるためになくてはならないもの。

ドライブをするという感覚ではないんです」と返ってきた。続けて、「でも、クルマが運転できてほんとうに良かったと思います」と。

その言葉がまさに、私のモヤモヤ雲を晴らす光線だった。クルマに限らず、女性は結婚や出産やさまざまな理由で、なにか好きなことから離れたり、我慢しなければならないことが多い。

私もつい他人と比べてそれを悲観したり、愚痴をこぼしたりしてしまいがちだった。でも、それではなにも前に進まない。「できてよかった」そう思うだけで、どれだけ心が明るくなることだろう。土田さんが教えてくれた、前を向く呪文。「運転ができて、ほんとうによかった」

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●まるも亜希子/Akiko Marumo
エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集者を経て、カーライフジャーナリストとして独立。
ファミリーや女性に対するクルマの魅力解説には定評があり、雑誌やWeb、トークショーなど幅広い分野で活躍中。国際ラリーや国内耐久レースなどモータースポーツにも参戦している。

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