東京エスプリ倶楽部 vol.4 NSXの民主主義

アヘッド 東京エスプリ

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2016年の私的カー・オブ・ザ・イヤーを発表します。ジャジャーン。ホンダNSX! 26年ぶりにフルモデルチェンジした和製スーパーカー、といいたいところだけれど、今度のNSXはアメリカ人が開発リーダーで、生産はオハイオの新工場である。なので準和製、ちょっとガッカリのグローバル企業ホンダの面目躍如ともいえる2代目である。

text:今尾直樹 [aheadアーカイブス vol.169 2016年12月号]
Chapter
vol.4 NSXの民主主義

vol.4 NSXの民主主義

ドライバーの背後に縦置きされるドライサンプの3.5ℓV6DOHCターボは、最高出力507ps、最大トルク550Nmを発揮し、後輪のみを駆動する。3つあるモーターのうち、ひとつはエンジンを助け、残りのふたつは前輪を駆動する。

システム最高出力581ps、最大トルク646Nmというハイテク満載のハイブリッド4WDスーパーカーである。単に復習ですけど。

でもって、もんのすごく速いらしい。らしい、というのは私はまだ乗っていないからである。乗っていないけれど、1日に8台しかつくれない、2,370万円のスーパーカーが海の向こうの宗主国の雇用を生み出し、向こう2年の予約が埋まっているというのだからおめでたい。

NHK紅白歌合戦にゲスト出演する資格は十分ある。

9月某日、私は東京・青山一丁目のホンダ本社で、その新型NSXの開発リーダーのアメリカ人、テッド・クラウスさんの取材に同席する機会を得た。

それまでクライスラーでKカーの開発に携わっていたクラウスさんはもともとシャシーの専門家で、ベンチマークにしていたホンダ・プレリュードSi、黄色い’88年型に感銘を受け、’90年に発売されたオリジナルNSXを見て、その年の秋にホンダに入社した。

その後、2年間栃木の研究所に研修に来ていたこともあり、日本語はペラペラだ。

新型NSXは速いけれど、静かすぎて速さにリアリティがなくて興奮しない。スーパーカーなのに興奮しないでどうする。という趣旨のことをこの時、某誌編集長が英語で質問すると、クラウスさんも英語で答えた。

「エガリタリアンegalitarian」という聞きなれぬ単語が出てきたので、通訳の方にお尋ねすると「平等主義者」という意味だそうである。NSX以前には絶対に成立するはずのなかった対立する概念、「万人のための民主主義的なスーパーカー」というコンセプトを2代目NSXもまたNSXなのだからして当然のように受け継いでいる。

「静かなスポーツカーはノー・サンキューという人もいるでしょう。でも、エグゾースト・システムを換えて音を大きくすることは簡単です。我々にもできるし、カスタマーもカスタマイズできる。

ただ、NSXには独自のヘリティッジがあることをご理解願いたい。そこのバランスをどう取るか。将来、われわれのNSXを異なるアイディアにまで広げたい。だから、僕のことをプッシュしてください。スズキさん、欲しいでしょ、エモーショナルなバージョン。ぷううん、ぷうん!」

そのV6サウンドの口真似の上手かったこと。NSX、乗ってみたいなぁ。

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text:今尾直樹/Naoki Imao
1960年生まれ。雑誌『NAVI』『ENGINE』を経て、現在はフリーランスのエディター、自動車ジャーナリストとして活動。現在の愛車は60万円で購入した2002年式ルーテシアR.S.。
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