リアルなバイク生活を描く大森しんやの世界

アヘッド せきはん『グッバイエバーグリーン』

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バイクに乗ったことがない人に「バイクって何がいいの?」と聞かれたとき、アナタはなんと答えるだろうか。

text:横田和彦 [aheadアーカイブス vol.169 2016年12月号]
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リアルなバイク生活を描く大森しんやの世界

リアルなバイク生活を描く大森しんやの世界

走り出した瞬間に感じた自由さ、四季の変化を体全体で味わう感覚、苦労してたどり着き見ることができた美しい光景、トラブルに見舞われたときに見知らぬ人に助けてもらって感じた人情、不条理な出来事から得た教訓、一緒に走った仲間との間で生まれた強い絆…。

バイク歴が長い人ほど、宝石のようにきらめく思い出が数多くあるはずだ。しかし、それらを人に話そうとすると、口から出てくるのはありきたりで陳腐なワードばかりになってしまう。想いが伝わらずに、納得がいかない表情をしている相手を見て歯痒い思いをした。

そんな経験をしたことがある人も少なくないのではないだろうか。

そんなときにオススメしたい方法のひとつに「相手にバイクマンガを渡す」という手がある。バイクマンガと言うと軽く聞こえるかもしれないが、マンガの力は侮れない。ビジュアルと効果音、セリフによるダイレクトな表現は、ときに文学的な言葉や文章をも超える。

もちろんバイクが出てくればどんなマンガでも良いという訳ではない。今の一押しは「グッバイエバーグリーン(著・せきはん)」である。ざっくり説明すると、主人公の女子高生がバイクの免許を取り、いろいろな人物と関わって成長していくといった内容である。

バイクマンガにありがちな非日常的なスピードや暴力、過剰な萌えなどとは無縁の世界。むしろバイクマンガというカテゴリーを超えて、多くの人に手にとって欲しいと思える一冊である。

もうひとつのオススメは「恋ヶ窪ワークス(著・大森しんや)」。こちらはちょっと笑えるドタバタなストーリーの中に、謎めいた展開や切なさ、ホロッとする要素などが盛り込まれた、言わば 〝ひっくり返したオモチャ箱〟みたいなファンタジーだ。

そのゴチャついた世界の中に、バイク乗りにはたまらない描写があちこちに散らばっているのだ。
この2冊の作者は、実は同一人物。自らもSDRやエストレヤなどに乗るライダーである。ゆえにマンガの中で描かれているバイクのディテールや走行シーンの描写はていねいかつリアル。その場の空気感まで伝わってくるので、バイク乗りであれば共感できるところが多々あるはず。

そして両方の作品に共通しているのが、主人公とそれを囲むキャラクターが魅力的であること。バイクと登場人物が絶妙に絡みあった物語は心が暖まり、読み終えると 〝バイクってイイな〟と思えるのだ。

僕が初めてこれらの作品を読んだとき、引き込まれ、共感し、そして自分がずっとバイクに乗り続けてきた理由が少しだけわかったような気がした。誰かにバイクの魅力を伝えたいときのみならず、バイクへの情熱を失いかけたときにも、ぜひ読んでもらいたい。マンガの力は侮れないのだ。

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text:横田和彦/Kazuhiko Yokota
1968年生まれ。16歳で原付免許を取得。その後中型、限定解除へと進み50ccからリッターオーバーまで数多くのバイクやサイドカーを乗り継ぐ。現在はさまざまな2輪媒体で執筆するフリーライターとして活動中。大のスポーツライディング好きで、KTM390CUPなどの草レース参戦も楽しんでいる。
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