小沢コージのものくろメッセ その30 ネット裁判時代

その30 ネット裁判時代

アヘッド 小沢コージ

事件前後の細かい言動、行動、様子。「あの時はあの席でチューハイを何杯飲んだ」と言った事件に関連あるのかないのか分からないようなことまで明らかにされる。

特に恐ろしいのはネット&クラウド動画だ。事件当時はもちろん、数年前の情報まで掘り起こして丁寧に文字化され「あの時こう言っていた」という証言になったり、キャラクターを想定させるプロファイリングが、プロではなく、素人の手でより残酷なレベルで行われる。

まさに◯◯の穴の毛までむしり取る…という表現がピッタリな恐怖のディテール描写。つくづく今のネット時代に安楽安穏はない。

攻撃対象に例外らしき例外がないのも特徴だ。好感度ナンバーワンタレントだろうが元トレンディ俳優だろうがアイドルだろうが、先日までヒット連発だった存在でも弱みを見せたら最後、手の平を返したように攻撃される。60歳以上の国民栄誉賞レベルのスポーツ選手ですら例外はない。時にトイレの落書きレベルの中傷がなされる。

最終的にはその存在を抹殺し、根こそぎ葬り去りたいのでは? とすら思える。まさしく有名人が大衆の手によりネットや動画で裁かれる「ネット裁判員時代」であり、狂気の出現だ。人のコミュニケーション史上において、歴史的転換点になる気がする。今後有名人になりたくない子供も増えるだろう。

同様とは言わないが、今後さらに勢いを増していきそうなのがメーカーに対する責任追究姿勢だ。エコカー問題、安全問題、VWに対してはもちろん、三菱に対してもそうだが、スキャンダルに対する反応が凄い。もちろんコチラは仕方ない部分もあるが、やはり情け容赦のなさが目に付く。

官庁やマスコミはもちろん、連動してユーザーまでもがほら見たことか! と叩く。だが、自動車はリスクを持つ一方、毎日、人の生活を助けている。クルマが無ければバスにも乗れないし、タクシーにも救急車にも乗れない。

エアバッグもそうだ。もちろん安い材料を使い、リスクを放置するのは大問題。だが、エアバックは果たして何人救っただろう。失敗は批判され、それを生み出した体質は改めるべきだが、メカニズムや作り手に対するプラスの側面がほとんど語られないのはおかしい気がする。

どちらにも感じるのは非常に一方的な感情のダダ漏れ、洪水であり、決壊であることだ。一部厳格な規制の話が出ているのもよく分かる。ネットはもはや自由や権利を飛び越え、狂気に近い。対象者が精神的に強いタレントでないと自殺するレベルにも来ていると思う。

もっとも規制し過ぎるのは良くないし、いろんな意見が出て議論が高まるという声もあるのだろう。だが、とても理性的とは言い難く、そして今後このネット規制の仕方でその国の感情であり、意思決定までもが変わるような気がしている。いつからそんなに大衆は偉くなったのか。自らを反省しつつも問いたい。

-----------------------------------------
text:小沢コージ/Koji Ozawa
雑誌、ウェブ、ラジオなどで活躍中の “バラエティ自動車ジャーナリスト”。自動車メーカーを経て二玄社に入社、『NAVI』の編集に携わる。現在は『ベストカー』『日経トレンディネット』などに連載を持つ。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、トヨタ iQなど。

アヘッド ロゴ

関連キーワード

この記事をシェアする

関連する記事

最新記事