トライアンフのもうひとつのアイデンティティ

アヘッド トライアンフ

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ガソリンエンジンの歴史は単気筒から始まった。やがてそれを横に2つ並べ、もしくはV字型に組み合わせることによって2気筒化の流れが出来上がったわけだが、それは技術者やライダーなら誰もが思い描く、パワーとスピードに対する自然な欲求だったに違いない。

text: 伊丹孝裕 [aheadアーカイブス vol.166 2016年9月号]
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トライアンフのもうひとつのアイデンティティ

トライアンフのもうひとつのアイデンティティ

ならば、その次は3気筒化だったかと言えばそういう事実はなく、一足飛びに4気筒へと進化した。もちろんいくつかの例外はあったものの、60〜70年代を境にそれ以前の2輪メーカーは単気筒と2気筒を行き来し、それ以降のメーカーは2気筒を守ることにアイデンティティを置くか、4気筒に新たな可能性を見出すかの2派に分けられてきた…と言っても過言ではない。

そういう意味で3気筒はいつも微妙な立場にあった。レースの世界ではひと時の活躍があったものの、どのメーカーもそのメリットを明確に示すことができず、そのことが「2気筒のような味わいがあるわけでも4気筒のようなパワーがあるわけでもないどっちつかずのエンジン」というイメージを増長。現れてはいつしか消えていく不安定な存在だった。

ところがそうした状況を一掃したメーカーが現れた。それが新生トライアンフだ。時代の紆余曲折を乗り切れず、80年代に一度破綻したものの90年に復活を果たし、新工場でバイクの生産を開始。

パーツをできるだけ共有化しながらモデルバリエーションを増やす、いわゆるモジュラーコンセプトのもとで再建が図られたのだが、その中心的な役割を託されたのが他でもない並列3気筒だった。

2輪界には「3気筒の量産車は成功しない」という通説があり、実際トライアンフも'68年に750㏄の3気筒を搭載するトライデントで勝負に出たものの、ホンダのCB750やカワサキのZ1といった4気筒勢を前に不発。

スーパースポーツ全盛の90年代において再び同じ轍を踏むのかと思いきや、独特のサウンドとトルクフィーリングが人気を呼び、ブランドの復権に大いに貢献したのだ。

その成功がなければ3気筒が見直されることも、後にMVアグスタやヤマハが3気筒モデルの開発に乗り出すこともなかったかもしれず、今でこそ「2気筒よりもスムーズで4気筒よりもリニアで開けやすいいいトコ取りのエンジン」と言われるが、その評価を浸透させた功績はあまりにも大きい。

トライアンフのアイデンティティと言えば、新旧問わずボンネビルを筆頭とするバーチカルツインが築いてきたが、水冷トリプルがもうひとつの柱になっている日もきっと遠くない。今年一新された新型スピードトリプルで走り出した瞬間、それを実感することができた。
●Triumph SPEED TRIPLE R
車両本体価格:¥1,615,000(税込)
エンジン:水冷並列3気筒DOHC12バルブ
排気量:1,050cc
乾燥車両重量:192㎏
最高出力:103kW(140PS)/9,500rpm
最大トルク:112Nm/7,850rpm

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text : 伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。
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