東京エスプリ倶楽部 vol.3 スピリット・ オブ・ ル・マン

アヘッド 東京エスプリ

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日曜日の早起きは三文以上の得だ。ツラいといえばツラい。ふとんが好きだから。WEC第7戦富士6時間耐久レースのシャンペン飲み放題VIPチケットが余っていると誘われ、酒にひかれて行くことにした。

text: 今尾直樹 [aheadアーカイブス vol.168 2016年11月号]
Chapter
vol.3 スピリット・ オブ・ ル・マン

vol.3 スピリット・ オブ・ ル・マン

帰りはクルマに便乗させてもらえるけれど、行きは電車でなければならない。自宅の最寄駅を5時26分発の電車に乗り、揺れて揺られて小田急線の新松田駅に着いたのは7時37分だった。

新松田から御殿場線に乗り換えるつもりだったけれど、目の前にバス停があって、「富士スピードウェイ行き、間もなく入ります」というアナウンスが聞こえた。ふたりがけのシートにひとりで座れるほどの混み具合で、臨時バスは渋滞に遭うこともなく、8時30分ちょっと前に東ゲートに到着しようとしていた。

胸の中にはモヤモヤとした黒雲のようなものがあった。私はチケットを持っていなかった。誘ってくれた人との合流地点は西ゲートで、バスが富士スピードウェイのどこへ行くのか、私は知らなかった。

出発早々、到着予想時刻を運転手さんに聞いたら、「そんなことも知らないのか」という不穏な空気が車内に漂った。「このバスはどこへ行くのですか」という次の質問をする勇気が私にはなかった。

スピードウェイの構内に入ったバスは東門で一時停車すると、係りの人が車内に入ってきて「チケットを拝見します」と、昔の成田空港のゲートでパスポートを見せたみたいに言われるかもしれない……。という私の予想は外れ、東門を停止することもなくバスは通過し、上りの坂道をグオオッと加速した。私は「中に入ちゃった」とLINEでヤマシタさんに報告した。

ヤマシタ「西ゲートにこれます?」

イマオ 「わからん」

このバスに乗っている人たちは全員常連さんで、前売り券を持っているに違いなかった。持っていないのは私だけだ、きっと。バスはグランドスタンドの裏が終点で、そこで降りることになった。ええっ! タダで観られるじゃん。と一瞬思った。バスを降りると目の前にテントがあって、そこで当日券が売られていた。

私はヤマシタさんたちが西ゲートからチケットを手に迎えに来てくれるのをボーッと立って待っていた。テントにいる人が、「そこにイスがありますよ」と座ることを勧めてくれた。

秋晴れの下、空気が澄んでいて爽やかで、イスに座って場内を走るトヨタやらアウディやらを眺めていると、朝、自宅を出てきたことが遠い昔のことのような気がした。ちょっぴり眠たくもあった。

その後、無事VIPチケットを手にした私は、ピットの上の「スピリット・オブ・ル・マン」と名付けられたラウンジでシャンペン付きの朝食を味わった。11時のスタートを生で見た後、グラスのシャンペンとともにランチをいただいた。結局、私はシャンペンを5杯頂戴し、レース終了1時間前に家路に着いた。

トヨタの逆転勝ちを知ったのは渋滞の東名の車中のことで、私はすっかり夢現つだった。

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text : 今尾直樹/Naoki Imao
1960年生まれ。雑誌『NAVI』『ENGINE』を経て、現在はフリーランスのエディター、自動車ジャーナリストとして活動。現在の愛車は60万円で購入した2002年式ルーテシアR.S.。
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