ひこうき雲を追いかけて vol.54 人を導くもの

アヘッド ディーラー

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「何になりたいかも大事だけど、どういう風になりたいかも大事だよ」

高校生だったか、もう大学生になっていたかはっきり覚えていないが、そう言われたことがあった。将来進むべき道をある程度定めなければならない時期は、人生の中で案外早くやってくる。みな、まだ社会というものを知らないうちに、その決断を迫られるのだ。「将来、何になりたいの?」と。

text : ahead編集長・若林葉子 photo : 長谷川徹 [aheadアーカイブス vol.168 2016年11月号]
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vol.54 人を導くもの

vol.54 人を導くもの

もちろん私も例外ではなくて、自分が何になりたいかなんて、よく分からなかった。ただ社会に出るのが憂鬱。そんな時期に、冒頭の言葉はちょっと響いた。何になりたいかは分からなかったが、どんなふうな自分でありたいかについてはおぼろげながらもイメージがあったからだ。

どこで何をしていてもなるべく自由でいたい。それだけははっきりしていて、それは時間がたくさんあるという意味ではなくて、忙しいか否かに関わらず、何を決めるにおいてもできるだけ自分の裁量が反映されるということ。時間の使い方も仕事のやり方も。

しかし当然のことながら、現実はそう甘くはない。毎日、通勤電車に揺られて9時に出勤し、制服に着替えて、12時になったらランチに行き、17時になったら会社を出るというような生活を7年ほど経験した(それはそれで楽しかった)。

それでも私の中にはずーっと「どういう風になりたいかも大事だよ」という言葉は残っていて、人生のときどきに表れる分岐点で選んだ道は、結果的に自分がイメージした方向へと続いていたような気がする。

二十歳のころ思い描いた将来の自分は、普通にクルマにも乗っていて、それは赤いセダンで、イメージの中の私はいつも窓を下ろして、一人でなんだか楽しそうに運転していた。実際の私は免許を取る予定すらなかったのに。

それから15年ほどが過ぎて、初めて買ったクルマのボディカラーは赤だった。セダンではなくてハッチバックだったけれど。

そんなこともあって、私は人を導くのは理屈ではなくてイメージだと確信している。「願えば叶う」というのと似ていて、だから「願えば叶う」も全くの嘘ではない。単なる欲や荒唐無稽な思いつきは論外だが、例えば「あのクルマに乗りたい」と心から願ってイメージすれば、それはきっと向こうからやってくる。

「日本に10台しかないオートバイが、ある日偶然、自分の手元に来ることになった。でも、それはそのオートバイの存在を知って、憧れるようになってから9年経っていた」という人。

「一度手放したクルマにもう一度乗りたい。そう思っていたら、3人のオーナーを経て、自分のところに戻って来た」という人。

どちらも私の知り合いの、実際にあった話だ。

この話に限って言えば諦めは悪い方がいいし、妥協もしない方がいい。つまりは思い続けられるかどうか、ではないだろうか。

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text:若林葉子/Yoko Wakabayashi
1971年大阪生まれ。Car&Motorcycle誌編集長。
OL、フリーランスライター・エディターを経て、2005年よりahead編集部に在籍。2017年1月より現職。2009年からモンゴルラリーに参戦、ナビとして4度、ドライバーとして2度出場し全て完走。2015年のダカールラリーではHINO TEAM SUGAWARA1号車のナビゲーターも務めた。
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