Rolling 40's VOL.102 諸説

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VOL.102 諸説

アヘッド ROLLING 40's

私の家で数時間をかけて清掃から多くの不調箇所までを調整し、最後にオイルを交換すると、乗り味がまるで変わったそのバイクに嬉しそうにしていた。バイクいじりってものがこんなに楽しいとは夢にも思わなかったと彼は言った。

最近の若者はあまりバイクに乗らないという話もあるが、久々に自分の子供でもおかしくないような年齢のライダーと触れ合ったのは新鮮な時間であった。

しかし80年代バイクブーム直撃世代の私たちとはジェネレーションギャップがあるのも当然で、いろいろ話していくと、彼らの世代というのは、私たちのように趣味や遊びが数チャンネルに濃く絞られているのではなく、ネット情報も含め無数にチャンネルがあるが故に、一つのチャンネルが薄まっているような気がする。

彼は、バイクは楽しいが、全てを犠牲にしてまで新たに高額なバイクを買ったりするようなことはしないと言う。他にも楽しいことは沢山あるので、私たちの世代のように、給料の8割をローンに回してまでも、乗りたいクルマやバイクを手に入れるというような「愚か」なことはしない雰囲気だ。

勢いだけで後先は考えないというようなことはなく、話せば話すほどに、彼らの世代は冷静だ。

ただ、そういう気質が彼らにとってマイナスであるかは別の話であると思う。私たちの世代のように、好きなことを見つけたら脇目も振らず没頭するというスタイルにはない、物事を俯瞰して見ているという冷静さは強みでもある。

私たちの時代のように、間違った方向にも突き進み続けるということは少ないであろう。

一方、そんな冷めた時代を生きる彼らでも、やはり男ってものは、問答無用でバイクが好きだとも思った。

だから、子供でもおかしくないような世代差のある彼とも、そこにバイクという共通のオモチャがあるだけで、世代を超えた気持ちのやり取りが可能だった。

男がバイクを好きな理由というのは諸説あるらしい。馬的、女性的存在、機械的露出への憧憬、自由の象徴。

しかし本能と言う言葉は使ってはいけない。本能という言葉ほどいい加減でズルいものはないだろう。そのシステムが元々脳に組み込まれているのだから仕方がない、とは科学的な言い草だが、同時にそれを科学的に証明できもしないのである。

しかし、ここまで多くの男たちがバイクを好きと言うのにも、何か科学的な理由があるように思える。

「ナンシーさん」
「なんき郎」
「ノッテタン」

これは休日などに、高速のサービスエリアにバイクを停めていると、バスツアーなどの高齢男性が、目を輝かせて「これは何㏄なの」「これは何キロ出るの」「俺も乗っていたんだ」と話しかけてくることがあまりに多いことから、彼らがよく言う台詞を茶化した「あだ名」である。

全く失礼な「あだ名」で申し訳ない限りであるが、彼らのような方々と言葉を交わす度、ますます男とバイクの関係について考えてしまう。

彼らがバイクを見つめる視線には洒落や冗談ではない本気なものがある。

「気持ち良いんだろうな…」

普段の生活で、初見である他人に、ここまで本気の気持ちを吐露することなどあるだろうか。それを「本能」という言葉では説明したくはないが、オーバーではなく、彼らの言葉には人類共通の欲求のようなものを感じざるを得ないのも本音だ。

そして大抵は後からやって来た強面の奥様に「アナタ何やってんの」と叱られる結末である。またその奥様達がバイクに注ぐ視線も共通で、この世で最も下らないものを見つけたような侮蔑に近いものだ。

この差は何であろうと、いつも重々しい気分になる。またそこに男と女の永遠なる乖離を感じざるを得ない。

繰り返すが、そういった場面に出くわす度に、使ってはいけない「本能」という言葉を使いたくなってしまう。悔しいが、つまりそれ以外に説明のしようがないのだ。バイクと男の間には、確実に見えない大きな装置があるはずだ。

そんな自分もいつかは、ナンシーさん、なんき郎、ノッテタンになるのだろうか。おそらくその時代は大抵のクルマが自動運転となり、高速のサービスエリアに並ぶ自動車はハンドルが付いていないかもしれない。きっと自動車を自分で運転することの方が少ない時代になっているかもしれない。

そんな時代になってしまったら、きっとヨロヨロとバイクに乗っている高齢者の私らを見つけて、 「自分で運転してるんですか」と質問をしてくるのだろう。

そんな奴らを「ジブデー」とあだ名してやろうかと、今から考えるのは少し早過ぎるかもしれない。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968

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