街のバイク屋がなくなる日 VOL.2 ユーザーはなぜ用品店を選ぶのか

VOL.2 ユーザーはなぜ用品店を選ぶのか

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ナップスは報道関係に向けたリリースのなかで、神奈川・厚木の店舗写真を載せ、「女性でも入りやすい外観を目指した」と添えている。あえてこうアピールするということは、キャリア豊富なバイクユーザーよりも、ビギナーや女性といったバイクに関する情報や知識に疎い顧客層、いわゆるライトユーザーをターゲットにしているのだろう。

用品量販店の整備サービスが伸びてきた理由は明確だ。豊富に揃ったパーツや消耗品から好みの商品を選ぶことができ、さらにその場で取付けや交換をしてくれる即答性。作業工賃はわかりやすく明記されているし、事前に説明もあり、しかも比較的安い。

エンジンのオーバーホールのような重整備ならともかく、オイルをはじめとする消耗品や外装パーツの交換程度なら整備技術の巧みさを問うほどではない。コンビニ感覚でバイクの整備やカスタムを済ませられる。

客の多くが求めているのは、期待以上のサービスではない。安く、早く、そして透明性の高いサービスだ。事前に費用がわかり、それに見合った結果を得られることである。

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もうひとつ重要なのは、そうしたサービスを誰もが公平に受けられることだ。客はあらかじめ情報を取捨選択して知識を身につけなくてもいい。目的に対してストレートに、あるいはショートカットして向かえる。好むと好まざるとにかかわらず、これが現代社会の需要と供給の関係だ。

いっぽうで、ナップス本社と隣接するベイサイド幸浦店は、メンテナンスにおいて高い実績を持つ店舗だ。点検整備や車検だけでなく、絶版車のオーバーホールやレストア、チューニングやカスタムも請けている。

それだけにピットの様子も用品量販店とは思えない光景が広がっている。ドゥカティ・749R、トライアンフ・デイトナ675、カワサキ・H2はレーシングチューンが施されているし、エンジンが下ろされたZ1もある。顧客からチューニングや整備を依頼されている車両がほとんどだが、なかにはスタッフ所有のマシンもある。

来店客は待合室からピットの様子を観察できるので、これらはディスプレイとしての役割を果たしていて、「ナップスの整備力は専門チューニングショップ並みだ」という印象を与えるに十二分の効果を発揮している。

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幸浦店のスタッフによれば、そうした車両を持ち込む客はナップスという看板ではなく、ここにいる整備士を信頼して作業依頼に来ているのだという。ナップスのある整備士はこう言う。

「カスタム専門店やディーラーのメカニックと同等以上の技術があることを証明したい」

ナップス幸浦店では、二重チェックを済ませないとピット作業完了とせず、客への作業内容説明は担当した整備士自身が行っている。たとえばタイヤ交換ひとつにしても、手間をかけてでもホイールバランス調整のウエイトを極力少なくしたり、交換作業後はホイールを洗浄したりと、整備士たちは技術を日々磨いて高め、ひとつひとつを丁寧にこなすことにプライドを持っているように見える。

こうしたやり方はナップスの作業マニュアルによるものではなく、担当する整備士個人の裁量なのだという。技術者としての研鑽を怠らず向上心を持ち、それを顧客へ還元することを整備士の矜持としているのだ。

だからこそ、ヘビーユーザーは幸浦店の整備士を信じ、頼りにする。彼らはコンビニ感覚でここに来ているのではない。整備に対する明確な哲学と確かな技術を持った職人に愛車を任せるために来ているのだ。

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都内のバイク販売店ではこんな話を聞いた。

「とくに若い人ほどメーカーや車種にこだわらないですね。ヤマハのMT|‌07が欲しいというお客さんに、うちはホンダとスズキの正規店だからと言うと、それならホンダのNC750でいいと。お客さんはメーカーや車種ではなく、店や人につく、ということを実感することが増えてきました。昔はそうじゃなかったですけどね」

著しく進化したスーパースポーツの動力性能は一般人が公道で楽しめる範疇を超え、スポーツバイクの進化の方向性が扱いやすさ、乗りやすさにシフトして久しい。バイクは優れた運動神経や動体視力を持つ者だけが操れる乗り物ではなくなり、誰もが超高性能を操れるものになった。

ヒエラルキーは崩壊し、公平な世界が訪れたのだ。それとともにバイク趣味の目的はバイクそのものではなく、バイクを使って何をするか、いかに楽しむかに変わりつつある。若い世代はそうした変化をしっかりと感じているのだろう。

市場縮小。販売店網再編。大資本の台頭。用品量販店の拡大。街のバイク屋の在り方を変えるのはそれだけではない。バイクという乗り物の在り方そのものが変わっているのだ。

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text:山下 剛/Takeshi Yamashita
1970年生まれ。東京都出身。新聞社写真部アルバイト、編集プロダクションを経てネコ・パブリッシングに入社。BMW BIKES、クラブマン編集部などで経験を積む。2011年マン島TT取材のために会社を辞め、現在はフリーランスライター&カメラマン。

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