ロードスター RFがもたらしたもの

アヘッド ロードスター RF

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シートから離れ、少し距離を置いて振り返ってみる。そんな時に決まって車体の斜め後ろから眺めたくなるクルマがある。もちろんそこから見るスタイルが最も絵になるからだが、ロードスターのRFはまさしくそういう1台だ。

text/photo:伊丹孝裕 [aheadアーカイブス vol.173 2017年4月号]
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ロードスター RFがもたらしたもの

ロードスター RFがもたらしたもの

いつ見ても何度見ても「きれいだなぁ」と思う。それは多くの人にとっても共通の感覚らしく、実際RFのカタログの表紙は車体の右斜め後方の、少し高い位置から見た姿を切り撮ったもの。写真の中のそれは、なだらかなフェンダーの曲面とくっきりとしたルーフラインの稜線が強調されたアングルになっている。

また、RFは誌面やパソコンの画面を通して見るより実車の方がずっと印象的なクルマでもある。オープンにした状態でもリヤルーフはボディに残るが、重心の高さは感じさせず、張り出した前後フェンダーとの自然なつながりを目の当たりにすると、ソフトトップではなくむしろこちらが本来の姿なのでは? と思えるほど佇まいが落ち着いている。

走らせた時のイメージもそれにたがわず、RFに搭載された1997㏄の4気筒エンジンはソフトトップの1496㏄エンジンに対して明確にトルクバンドが広く、シフトアップをスピーディにこなさなくても不用意に回転が落ちたりはしない。どんな場面でもイージーなギアチェンジとアクセルワークを可能にしてくれるおおらかさが魅力だ。

ATとMTのいずれにもそうした懐の深さが備わっているため、前者でより安楽な走りを楽しむのはこのクルマのキャラクターに見合ったものだろうし、後者でより忠実なレスポンスを引き出すのも楽しい。

ただし、MTの場合もシフトレバーを積極的に動かして高回転をキープし、コーナリングスピードを突き詰めるようなソリッドな走りを目的にはしていない。そういう醍醐味はソフトトップの範疇であり、RFにふさわしいのはオン・ザ・レール感覚でコーナーを駆け抜ける、スムーズな走りだ。

スポーツではなくスポーティ、レーシングというよりレーシングライク。RFはスピードレンジやスキル、走るステージに左右されることなく、いつでもどこでもそういう雰囲気に浸らせてくれるソフトタッチな乗り物だからだ。
もちろんその気になればスポーツカーにもレーシングカーにも成り得るものの、心地いい領域がそのずっと手前にあるところにRFの価値が集約されている。余力のあるエンジンもさることながら、やはりそのファストバックが要因だろう。

クーペルックとも呼ばれるそのスタイルは、言ってしまえば「仕方なく」採用されたものだ。ハードトップ仕様のモデルを用意する案は最初からあったものの、ソフトトップのデザインやハンドリングを優先して開発が進められたため、気がつけばルーフを収納するスペースが残されていなかったことに端を発する。

とはいえ、先代ロードスター(NC型)は電動格納式のハードトップを持つRHTがソフトトップの販売台数を上回っていたこともあり、営業面では必須。その一方で、格納のためにトランクを犠牲にしたり、ホイールベースを伸ばしたりすれば、それはロードスターとは別のクルマになってしまう。そんなジレンマの中で行き着いた先が「ならば無理に格納しなくもいいのでは?」というアイデアだったのだ。

かくして生み出された方法が、ハードトップをフロントとミドルとリアに3分割し、格納時はリアだけを残して他を折りたたむRF(=リトラクタブル・ファストバック)というカタチだったのである。

その過程でいかにして上層部を納得させ、技術者を説得し、数々の難題をクリアして、何にこだわってきたか。それを詳細に書き起こせば、丸々一冊の本になるに違いないが、ともかくソフトトップの登場から1年半の間隔を置いて、RFが送り出されることになった。
そんなRFがもたらしてくれたものは、「オープンカーに乗る」という行為の気恥ずかしさや敷居の高さをグッと引き下げてくれたところにある。ルーフを閉じていればクーペ並の静粛性の中で快適なドライブが約束され、開ければ十分な開放感がありながらもキャビンの中は穏やかなまま。

いずれの場合も包み込まれている感覚が強く、外の世界と同じ空気にさらされているようでパーソナルスペースはしっかり確保されている、そんなほどよい境界線をRFは保ってくれているのだ。体は風にさらされていてもヘルメットを被ることによって自分の世界に入れる2輪に近い空間と言っていいのかもしれない。

オープン特有のストイックさから解放され、1台でなににでも使え、どこへでも行けるRFは、ルーフを残さざるを得ないという制限を逆手に取って間口の広さを手に入れたとも言える。

そこには運転を楽しむという根源的な欲求を満たしてくれる運動性に加え、適度な社会性と我慢を強いられない程度の利便性も備わっているからだ。つまり、漠然と抱いていた「いつかはオープン」という夢のために、なんらかの犠牲や一大決心を伴う必要性がRFにはない。

ルーフの開閉時間は約13秒。もしもRFを手に入れたなら、その13秒で夢と現実、日常と非日常の世界を自由に行き来できるのである。

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text:伊丹孝裕/Takahiro Itami
1971年生まれ。二輪専門誌『クラブマン』の編集長を務めた後にフリーランスのモーターサイクルジャーナリストへ転向。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク、鈴鹿八耐を始めとする国内外のレースに参戦してきた。国際A級ライダー。
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