東京エスプリ倶楽部 vol.7 トヨタイズムの真骨頂

アヘッド 東京エスプリ

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発売前のレクサスの大型クーペ、LCをマジマジと見る機会があった。2012年のデトロイト・ショウに展示されたコンセプトカー、LF-LCがもとになっている。それゆえ、やや既視感はあるけれど、NXやRXのようなペキペキ・デザインとは違う方向にレクサス全体が向かうのだとすればたいへん好ましい。V10のスーパーカー、LFAを滑らかにしたみたいなLCは、初代LSが目指した面の美しさに回帰したようにも思える。

text:今尾直樹 [aheadアーカイブス vol.172 2017年3月号]
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vol.7 トヨタイズムの真骨頂

vol.7 トヨタイズムの真骨頂

LF-LCは量産化を考えていなかった。カリフォルニアにあるトヨタのデザイン拠点キャルティで、デザイナーが「理想のクーペ」をのびのびとつくった。それが高評価を得て、急遽生産することになった。5年で商品化したのはトヨタ=レクサスにあっては異例のことらしい。

量産化のカギのひとつは、フロント・ミドシップの新しい後輪駆動プラットフォームにある。新たにこれをおこせることになって、あの低くて長いノーズが実現した。新プラットフォームはTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)のひとつとして位置づけられる。

ということは、次のLSもクラウンもフロント・ミドシップになる? と新型ヴィッツの試乗会に来ていたTNGA全体の担当エンジニア氏に訊ねたところ、「ええ、まぁ」という回答を得た。そうなんだぁ……。

「もっといいクルマをつくろうよ」という豊田章男社長の改革運動がトヨタのスタンダードを変えた。TNGAの狙いは、ごく簡単にいうと、重心を下げて運動性能を上げることにある。

「エンジンのような重量物を仮に数十㎝下げたところでクルマの重心は数㎜しか低くならない。それでも、人間はそれを感じることができる」。自信に満ちた声でエンジニア氏はそういった。

マイナーチェンジした新型ヴィッツの試乗会のとき、デザイン担当の方ともおしゃべりした。

デザイナー氏は新しい生地の見本を筆者に見せながら、

「触ってみてください。厚いでしょ。これをシートに採用しました。ふだんヴィッツに慣れている営業マンの方に、『あ、シートを変えましたね』といわれました。でも、シートの中身は変えてない。生地はこれまでと同じコストです」

といって胸をはった。これぞトヨタイズムの真骨頂。

筆者は中部地方で生まれ、祖母に「モッタイナイでアカンわ」といわれながら育ったので、このような考え方に大いに共感する。プリウスの試乗会のとき聞いたのですけど、TNGAってじつは寄せ集めらしいですね。

リアのサスペンションはオーリスのダブルウィッシュボーンを持ってきたものだし、いかに金を出さずに知恵を出すか、ということをやっている。さすが三河のどケチ……とまでは申し上げませんでしたが、そのような質問を前述のTNGAのエンジニア氏に投げかけたところ、困惑気味につぶやいた。

「いや、全部新たにおこしてますから」

トヨタ神話としてはそうじゃない方がオモシロイと思うのは私だけでしょうか。

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text:今尾直樹/Naoki Imao
1960年生まれ。雑誌『NAVI』『ENGINE』を経て、現在はフリーランスのエディター、自動車ジャーナリストとして活動。現在の愛車は60万円で購入した2002年式ルーテシアR.S.。
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