Rolling 40's VOL.104 満腹感を知る時代に

VOL.104 満腹感を知る時代に

アヘッド ROLLING 40's

今年のモーターサイクルショーは入場者数も前年比一割増しで、発表された新機種の方向性や新技術の質など、全ての面でかなり豊作な年だったと思う。

新機種に関して言うと、各メーカーの方向性が、巨大モンスターマシンを作り出すことに心血を注ぐフランケンシュタイン博士系ではなく、小型スーパーマシンの元祖、アトムを生み出したお茶の水博士系であったことに拍手を送りたい。

またそれが妙に地味であったりエコ的萎縮をしているのではなく、堂々とバイクと人間の健全な関係を提示していると受け取れた。

ハッキリ言ってモンスターマシン的なバイクに私はあまり興味がない。最高出力200馬力オーバー、最高速度350キロ、特殊合金だらけのハイテクモンスター。

昭和の時代はそれで良かったのかもしれない。メーカーも全てが手探りで、ライダーたちも雀の子のようにいつも口を開けて待っていて、出されたものを何でも無言で飲みこむ。

だが平成も30年近く経とうとする時代、そういう方向性の探求が、昔ほど注目されないということを私たちの多くが知ってしまっている。

「それをどう使うと…面白いの?」

フランケンシュタインのようなスーパーマシンと対峙した時、私はいつもそう呟いてしまう。15年前にはエンジンまで手を入れた、フルカスタムの「ハヤブサ」を乗り回していた私が言うのだから世も末だと笑われるかもしれない。

そのマシンはノーマルでも世界最速を謳っていた。メガスポーツと言うジャンルの創始で、大きな車体に大きなエンジンが信条で、私はそのマシンをレーシングパーツなどでエンジンからサスペンションまで全てを改造していた。

そこまでその世界に心血注いだ私である、そういう趣味嗜好を否定する気はない。人生の中の輝かしい瞬間の一つだと誇りに思っている。

だが、その趣味嗜好があるとき行き詰ったのは事実である。全身を攻殻機動隊の素子のようにサイボーグ化した「ハヤブサ」と向き合い、これは自分にとって何のためのマシンだろうかと思ってしまったのだ。

湾岸やアクアラインで、昭和の漫画のように300キロオーバーでフェラーリを追い抜くことだけを生きがいとする人生ならいざ知らず、そんな趣味は真似事だけで十分だ。サーキットで最速を狙うのなら、別のタイプの軽量な小型のマシンが向いている。

残った問いは使い切れもしないレーシングパーツを、盆栽のように飾っておくのが楽しいのか。そのパーツの輝きにプロレーサーにでもなったような錯覚を感じたいのか。正直、その手の趣味は嫌いではないと思った。

つまり金属の盆栽を眺めて、プロレーサーになったかのような気分に浸りたいだけのために、数百万のお金を散財しているということである。飽きて当たり前だ。

そんな時代から時間は流れ、湾岸でフェラーリを追い抜くことを夢見ていたアラサーたちもアラフィフに。家族のサービスの果てにバイクを降りてしまった愛妻家もいれば、未だにレースをやり続けている野武士もいれば、私のようにそのときの感覚のままに自由にバイクを乗り続けている吟遊詩人もいる。

そんなタイプの私が今年のモーターサイクルショーでは、新たに登場してきた小型マシンに目を奪われた。

私たちの世代共通のPTSDで、「センシーシ(1000cc)」と言う言葉を未だに捨てきれない部分がある。しかしそんな私たちを切り捨てるがごとく時代は進んで行くもので、いよいよ排気量信仰も終わりを告げようとしているような気がしてきた。

自分の好きなグラム数のステーキを食べられる「いきなりステーキ」という店と同じだ。自分の求める排気量のバイクに乗ればいいのである。レースの排気量レギュレーションなどどうでも良い、排気量の大きなバイクに乗っている方がその道の「通」に思われる。

そういう時代はほぼ終わりを告げ、意固地になってそこに居続けようとしていることが古臭いと思われていることを、私たち世代のバイク乗りはいよいよ気が付く時期になったのかもしれない。

少し前、一緒に「いきなりステーキ」に行った仲間が、食べきれないようなグラム数のステーキを粋がって頼んで残してしまった。肉になってくれた牛さんに失礼である。自然への冒涜であり、次の人生で、彼は罰として牛に食べられる草に生まれ変わるかもしれない。

私は草に生まれ変わりたくないので、いつも250グラムのリブステーキを頼むことに決めている。まあそれでも結構な量ではあるのだが、今の私にはちょうど良い満腹感である。

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text:大鶴義丹/Gitan Ohtsuru
1968年生まれ。俳優・監督・作家。知る人ぞ知る“熱き”バイク乗りである。本人によるブログ「不思議の毎日」はameblo.jp/gitan1968

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