デイヴィッド・ブラウン・ミニ 洗練は模倣を超えられるのか

デイヴィッド・ブラウン・ミニ 洗練は模倣を超えられるのか

アヘッド デイヴィッド・ブラウン・ミニ

ジャガーXKRをベースとしてアストン・マーティンDB6風のクラシカルなボディを被せ、60万ポンド(8400万円)という破格のプライスタグを掲げたスピードバックGTの生産は11台に留まっている。いや11台も作られた、と言った方が良いだろう。

いずれにせよ生産車の外見を変えて「オリジナルモデル」だと言い張るお遊びは、イギリスの自動車界では珍しくない。かのジャガーやロータスのように今日では国を代表するほどの名の通ったメイクスですら、その第一歩は量産車をベースにした改造車だったのだから。

とはいえ、何らかの強烈な個性が込められていなければ、この手の作品は単なる模倣として扱われ、エンスージャストに称賛されることもないだろう。

イギリスには裏庭生まれのスポーツカー、所謂バックヤードスペシャルが星の数ほどもあったのだが、彼らの作品の多くは模倣の域を出ず、製作者の自己満足に終わっている。厳しい言い方をすればデイビッド・ブラウンの処女作、スピードバックGTもまた模倣に過ぎなかった。

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ジャガー(前身のスワロー)はベースとなったオースティン・セブンのそれを完全に凌ぐ飛び切り美しいスタイリングによって大衆を熱狂させた。

一方やはりオースティン・セブンを源流とするロータスは、類稀なる軽さを活かしてレーシングの世界を掌握し、そのブランドネームを世界に轟かせている。

ではオリジナルモデルの第2弾をリリースするに当たって、デイビッド・ブラウンはクラシックミニにどんな魔法をふりかけたのだろうか?それはジャガー的でもロータス的アプローチでもない。一番のヒントは「リマスタード」という言葉にあるだろう。

音楽の世界では古い楽曲を最新の技術によってデジタルリマスタリングすることが珍しくないし、服飾の世界でも古着のシェイプを現代的にリメイクスするという手法はごく当たり前のように行われている。デイビッド・ブラウン・オートモーティブがクラシックミニに施した作業もまさにこれ。現代の技術と上質な素材を用いて、ミニに今日的な洗練を与えたのである。

アヘッド デイヴィッド・ブラウン・ミニ

ミニ・リマスタードのベースとなるのはもちろんクラシックミニだが、使用される部品は徹底的にオーバーホールされ1330ccまで拡大される4気筒エンジンと4段のギアボックスというパワートレーンのみである。

ボディは今日も再生産され続けている新品のシェルを用いつつ、追加ブレースを仕込むことで補強。スタイリングはAピラーやCピラーに沿っていた特徴的なプレスのミミの部分を切り落としてスムージングしている。

室内の改変は外観よりもわかりやすく、スマホと親和性の高いナビを中央に据えたダッシュパネルはレトロモダンなものに作り直され、シートも上質な皮革でトリムされる。

シャシーナンバーに関してはドナーのものが継続されるので、ミニ・リマスタードは20世紀製となり、新たな法律の影響は受けにくい。

ちなみにミニ・リマスタードの最低価格は50000ポンド(700万円)なのでスピードバックGTと比べれば遥かに現実的だが、オプションを追加していけば簡単に1000万円近くにまで達してしまう。

それでもミニ・リマスタードを1台仕上げるのに1400時間も掛かるというので、工賃を考えるとリーズナブルという見方もできそうだ。

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銘車をリメイクしてプロダクション化した例としてはアメリカのシンガー・ビークル・デザインがポルシェ964をベースとしてナローポルシェ風にし「リボーン」させたモデルが有名である。

恐らくミニ・リマスタードの精神はシンガーに倣ったものと思われるが、自己満足に終わってしまったイギリス製の数々の裏庭作品群と比べれば、今回のデイビッド・ブラウンの目の付けどころは悪くない。

扱っている素材は伝統的だが、リマスタードという料理方法はモダンそのもの。デイビッド・ブラウンにとって2度目のアプローチは現実的であり興味深い。


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text:吉田拓生/Takuo Yoshida
1972年生まれのモータリングライター。自動車専門誌に12年在籍した後、2005年にフリーライターとして独立。新旧あらゆるスポーツカーのドライビングインプレッションを得意としている。東京から一時間ほどの海に近い森の中に住み、畑を耕し薪で暖をとるカントリーライフの実践者でもある。

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