埋もれちゃいけない名車たち vol.40 911を前に敗れた主力モデルという夢「ポルシェ 928」

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初恋というのは、ほんのりとした淡い憧れじみたものだったり、いきなり熱病のような重篤なものだったりする。その双方の普遍的な対象としてポルシェの名前を挙げたとしても、異論はないだろう。

text:嶋田智之 [aheadアーカイブス vol.156 2015年11月号]
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vol.40 911を前に敗れた主力モデルという夢「ポルシェ 928」

vol.40 911を前に敗れた主力モデルという夢「ポルシェ 928」

高性能スポーツカーとしても一流の嗜好品としても比較的ポピュラーな存在だし、価格は安価とはいえないが、他のハイ・ブランド達と較べれば親しみやすい。ユーストカーまで範囲を広げれば、タマ数も豊富で手に入れやすい。

そんなポジションに昔からあったせいだろう。子供の頃に憧れを抱き、大人になって頑張って手に入れ、その世界の深さを知ってあらためて熱愛を注ぐという、まるで〝初恋2点盛りセット〟みたいな人が少なくないのも、またポルシェである。

が、大抵の場合、その対象は〝911〟である。1964年の初代登場から何度もモデルチェンジを繰り返しながら、RRレイアウトにフラット6エンジン、特徴的なシルエットという基本形を変えずに生産が続いてる911は、今もポルシェの主力モデルであり、名車と呼ばれ続けている。

けれど、その影で涙を飲むことになった、隠れた名車というのが存在することを忘れてはいけない。

その筆頭が、僕はこの〝928〟だと思う。911に代わるポルシェの主力となるべく開発され、1978年に発表されたFRレイアウトのスポーツカーである。

'70年代に入った頃、ポルシェは1948年の356の時代から続けてきたRRレイアウトのスポーツカーの将来的な発展に限界を感じていて、911の上と下にFRのスポーツカーをラインアップさせ、成功したら911をドロップオフさせようと考えていた気配がある。その911の上に置かれたのが、この928だったのだ。

アストンやフェラーリの領域にも届くようなプレミアムなスポーツクーペを目指したのだから、あつらえはゴージャスだった。が、やはりポルシェ。フル4シーターに近い大柄なクーペでありながら、運動性能が飛び抜けたものでなければならないという命題を捨てたりはしなかった。

自社製のV8ユニットをフロントミドに積み、トランスミッションはトランスアクスルに配置し、コーナリング中の横Gを利用して外側後輪を機械的にイン側に向ける〝ヴァイザッハ・アクスル〟という画期的な機構を開発し、採用していた。万能型の超高速GTカーでありながら、911以上に曲がることを厭わない素晴らしいスポーツカーだった。

928は、北米を中心にそれなりに成功した。18年間も生産され続けた。が、その間、販売台数で911を超えたことは一度もなかった。こんなにも凄いスポーツカーなのに911を超えられなかったという事実に、ポルシェのファンとして今も複雑な気持ちになることがある。

ポルシェ 928

ポルシェ928は、911に代わる次世代の主力モデルとして開発され、1978 年に発表された。ターゲットは、メルセデスのSLやBMWの6シリーズを凌ぐ高級スポーツクーペ。けれどポルシェの名に恥じない動 力性能を追求したのは当然のことで、最高速度はデビュー当初で230km/h、モデル末期には実に294km/hをマークした。

実用性を兼ね備えていたことから北米を中心にそれなりに売れたが、経営の悪化に伴うモデルの整理で、1995年、ポルシェは911を残すことを選択して生産を中止。“ポルシェ= 911”というイメージは、当時から存在したのだ。

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text:嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。
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