オートバイメーカーの手掛けたスーパー・スポーツカー

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オーストリアのKTMがオートバイのメーカーであることは先刻御承知であろうが、自動車、それもかなりリアルなスポーツカーを作っていることを御存知ない方もおられるかも知れない。

text:嶋田智之 photo : KTM [aheadアーカイブス vol.132 2013年11月号]
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オートバイメーカーの手掛けたスーパー・スポーツカー

オートバイメーカーの手掛けたスーパー・スポーツカー

2007年の発表以来、XーBOW(クロスボウ)という名の、オートバイでいえばネイキッドの中型スーパースポーツに相当するようなモデルを、世界中のマニアに向けて送り出してきているのだ。

最初に手掛けたクルマがこうした突拍子のない姿をしたスポーツカーというのも驚きだが、もっと驚くべきなのは、各部のクオリティの高さとスポーツカーとしての走行性能の高さ。新参メーカーが失敗しがちなふたつの要素を、ほぼ完璧といえるレベルで満たしていたことだった。

KTMの慧眼は、車体の基本構造の設計をレーシングカー作りで長年の経験を持つイタリアのダラーラに委ねたこと、スタイリングをオートバイと同じジェラルド・キスカに任せたこと、そしてエンジンやトランスミッションなどのコンポーネンツをアウディから供給させるのに成功したこと。加えて専用工場を新設し、徹底した品質管理のもとにハンドメイドで丁寧に作り上げること。
そうして完成したXーBOWは、世界中のジャーナリストやスポーツカー乗りといった達を唸らせた。同じ車重1トン以下にあるモダン軽量スポーツカーのライバル、「ロータス・エリーゼ」のレベルにはじめから達していて、部分的には凌駕していたのだ。

けれど、KTMのオートバイの精神性をそのままクルマに落とし込んだようなXーBOWには、耐候設備というものがなかった。屋根どころかフロントウインドーすらなかったのだ。

まるでフォーミュラのレーシングカーを走らせるようで刺激の強さは抜群だが、スパルタンに過ぎて、そのままで長距離を走るのは辛い。もう少しツアラーとしての要素を持ったモデルが欲しいという声も少なからずあって、KTMはそれに見事なかたちで応えたといえる。
●X-BOW GT
車両本体価格:未定 全長×全幅×全高(mm):3,738×1,915×1,202
総重量:847kg エンジン:Audi 2.0TDSI ターボチャージャー付4気筒DOHC
駆動方式:MR 総排気量:1,984cc 最大出力:210kW(285ps)/6,400rpm 
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/3,200rpm 燃費(NEDC値):8.3ℓ/100km


今回、XーBOWの工場があるオーストリアのグラーツ近郊で試乗した〝XーBOW GT〟は、名前のとおりにグランドツーリングにすら気負わず出掛けることのできるキャラクターをも備えていたのだ。

簡単にいえばフロントウインドーと跳ね上げ式ドアのようなサイドウインドーが備わっただけだが、そのスタイリングには、最初からそうであったかのように全く違和感がない。華奢に思えるガラス製のウインドー類は素晴らしく堅牢で、乗車時にサイドウインドーを多少手荒く閉めたところで割れそうな気配は皆無。

ウインドー類の高さもラウンドの具合も巧みに計算されていて、巻き込みはもちろん、速度を上げても窓があることによる風切り音は一切ない。オプションで用意される簡易式のトップは、グショ濡れで帰らなければならないリスクを大幅に抑えてくれる。何よりウインドー類が比較的立っていてガラスには縁というものがないから、開放感も大きいまま。あらゆる面で良く考えられているのだ。
▶︎X-BOWというクルマを一言で表すとしたら、全身が走るための機能のみで出来上がってるということ。レーシングカーばりのサスペンションにしてもカーボン製のパネルにしても、全てがそこに向かっている。そのことももちろんだが、操作系の集中のさせ方や室内の完璧なまでの防水処理など、オートバイのメーカーならではの考え方が随所に見られるのも興味深い。フロントとサイドのウインドーはフェアリング、簡易型の幌はカッパみたいなものか。


XーBOWの魅力は、この手のスポーツカーにしては異例にカッチリとした精密な乗り味としなやかな乗り心地、そしてレーシングカーライクな走りっぷり。その独特の世界は微塵も削がれていない。

ミドシップマウントされる2リッター直4ターボは289psと42.8㎏mを発揮し、847㎏の車体を、まるで500ps級のスーパーカーにも匹敵する勢いで猛然と加速させる。その強烈な速さは、堪らなくなるほど刺激的だ。

シャシーの出来栄えも相変わらず秀逸で、ミドシップならでは鋭い回頭性、ミドシップらしからぬ挙動の掴みやすさとコントロール性の良さを存分に楽しませてくれる。慣れてさえしまえば、定常円旋回で延々とドリフトし続けられるほどに。

走らせてるときの、まるで自分の手足の延長にあるようなクルマと自分の一体感、そして快感。まるでオートバイのようである。そこを熟知してることが、KTMの強みなのだ。

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text : 嶋田智之/Tomoyuki Shimada
1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍
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